
この漢字、なんて読むの~?



「誤謬」?
「ごびゅう」だね。間違いのこと。



ややこしい漢字だねぇ。漢字テストに出たら、きっと間違える。
「誤謬」の漢字テストで誤謬…。てへ♡



「誤謬」という用語は監査でよく使われるけれど、実は監査と会計では「誤謬」の定義が異なるよ。
「誤謬」の定義と不正との違いを勉強しよう。
財務諸表監査において、監査人は、不正か誤謬かを問わず、全体としての財務諸表に重要な虚偽表示がないかどうかについて合理的な保証を得ることにより、財務諸表が全ての重要な点において適正に表示されているかどうかに関して意見を表明する責任を負います。
この記事では、公認会計士 のそのそ が、監査における「誤謬」の定義と、不正との違いをわかりやすく説明します。
- 監査における「誤謬」の定義
- 不正と誤謬の違い
監査における「誤謬」と会計における「誤謬」



「誤謬」は、日常ではほとんど使わない言葉だね。
「誤謬(ごびゅう)」は「間違い」や「誤り」を指す言葉です。もっとも、利用されるシーンによってその意味は微妙に異なります。
経済学では「合成の誤謬(※)」という表現がありますが、ここでいう「誤謬」は「論理的な誤り(fallacy)」というニュアンスと解されます。
※合成の誤謬:ミクロのレベルでは合理的な行動であっても、それをマクロのレベルで合成すると、必ずしも望ましい結果にならないこと。例えば、個人にとっては貯蓄が合理的な行動であっても、すべての人が貯蓄を増やすと、経済全体では消費が減少して需要が低下し、景気が悪化して国民所得が減少する可能性がある。
一方、監査でも「誤謬」という用語が使われます。この「誤謬」は、具体的・直接的な「間違い(error)」という意味合いです。



財務諸表の虚偽表示は、不正又は誤謬から生じるよ。
監査においては、「誤謬」と「不正」を区別して扱うんだ。
監基報の規定を確認しよう!
監基報240「財務諸表監査における不正」
2.財務諸表の虚偽表示は、不正又は誤謬から生ずる。不正と誤謬は、財務諸表の虚偽表示の原因となる行為が、意図的であるか否かにより区別する。
10.(1) 「不正」-不当又は違法な利益を得るために他者を欺く行為を伴う、経営者、取締役、監査役等、従業員又は第三者による意図的な行為をいう。



つまり、財務諸表の虚偽表示が意図的に(故意に)行われたものでない場合は、「誤謬」だね。
一方で、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」では、「誤謬」が次のように定義されています。
4.(8)「誤謬」とは、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる、次のような誤りをいう。
① 財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り
② 事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り
③ 会計方針の適用の誤り又は表示方法の誤り



会計基準における「誤謬」には、不正に起因するものも含まれるということ?



そうなんだ。
「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」は、過去の(≒発生してしまった)誤りの訂正に関する会計上の取扱いを定めるものだよね。
誤りが不正を原因として生じたか否かによって、訂正に関する取扱いが異なるわけではないから、会計基準における「誤謬」には、意図的でない誤りだけでなく、不正を原因とする誤りも含まれるんだよ。



ややこしいのは漢字だけじゃなかった!
監査において不正に特段の注意を払う必要がある理由



監査において不正と誤謬を区別して扱うのには、理由があるんだ。
誤謬は、その原因となる行為が意図的ではなく、隠蔽などは伴いません。これに対し、不正はその原因となる行為が意図的で、隠蔽するために巧妙かつ念入りに仕組まれたスキームを伴うことがあります。



不正が行われる場合は、文書の偽造やウソの陳述といった、隠蔽工作が行われることが多いはずだもんね。
したがって、監査人が不正による重要な虚偽表示を発見できないリスクは、誤謬による重要な虚偽表示を発見できないリスクよりも高くなります。



それに、誤謬は単なる誤りだから、誤謬による虚偽表示は、金額や質の面で必ずしも重要ではないことも考えられるね。
これに対して、不正、なかでも経営者が関与する不正な財務報告(=粉飾)は、財務諸表の利用者を欺くために行われるものだから、金額的にも質的にも重要な虚偽表示に直結する可能性が高いよ。
そのため、監査人は、財務諸表の重要な虚偽表示を看過しないために、不正について特段の注意を払う必要があります。監査人は、誤謬を発見するために有効な監査手続が不正を発見するためには有効でない可能性があるということを認識し、監査の過程を通じて職業的懐疑心を保持することが求められます。



だから、監査においては、監査人が特段の注意を払うべき「不正」と、単なる「誤謬」を区別して扱うんだね。
不正の種類
「不正な財務報告(粉飾)」と「資産の流用」
不正は、不正な財務報告(粉飾)と資産の流用に分類されます。



「不正な財務報告」は、財務諸表の利用者を欺くために財務諸表に意図的な虚偽表示を行うこと。いわゆる「粉飾」だよ。



「資産の流用」は横領っていうことかな?



そうだよ。たとえば、従業員による資産の窃盗や受取金の着服だね。
資産の流用は、主に従業員による資産の窃盗・私的利用や受取金の着服であるため、財務諸表全体の重要性と比べれば、少額なこともあります。
これに対し、不正な財務報告は、主に経営者(あるいは経営者からのプレッシャーを受けた責任者)が、企業の業績などに関して財務諸表利用者を欺くために行うもので、企業内部に構築された内部統制を無効化して行われることも少なくありません。そのため、不正な財務報告は、金額的にも質的にも、財務諸表における重要な虚偽表示となる可能性がより高いと言えます。



監査人は、不正な財務報告について特に留意する必要がありそうだね。



そうだね。
もちろん、現金などの窃盗されやすい資産を取り扱う機会が多かったり、監視や承認体制が不十分だったりする場合には、従業員による横領が長期間発覚せずに、重要な虚偽表示が生じる可能性もあるよ。
だから、監査人は、資産の流用についても、不正による重要な虚偽表示が行われる可能性に常に留意しなければならないよ。
経営者による不正と従業員による不正
不正は、誰によって行われるかという観点からは、経営者不正と従業員不正に分類されます。
経営者は、有効に運用されている内部統制を無効化することによって、会計記録を改竄し不正な財務諸表を作成することができる特別な立場にあります。
したがって、監査人が経営者不正による重要な虚偽表示を発見できないリスクは、従業員不正による重要な虚偽表示を発見できないリスクよりも高いと言えます。



従業員の立場では、運用されている内部統制を無効化して不正を行うことはできないもんね。
不正に関する監査人の責任



最後に、不正に関する監査人の責任を確認しておこう。
財務諸表監査において、監査人は、不正によるか誤謬によるかを問わず、全体としての財務諸表に重要な虚偽表示がないことについて合理的な保証を得る責任を負っています。



監査人は、合理的な保証を得たうえで、財務諸表が全ての重要な点において適正に表示されているかどうかに関して意見を表明するんだよね。
監査人は、あくまでも、財務諸表に重要な虚偽表示がないことについて合理的な保証を得ることに責任を負うのであって、不正そのものを発見・防止する責任は負いません。また、不正の発生に関する法的判断も行いません。
監査人は、合理的な保証を得るために、経営者が内部統制を無効化するリスクを考慮するとともに、誤謬を発見するために有効な監査手続が不正を発見するためには有効でない可能性があるということを認識し、監査の過程を通じて職業的懐疑心を保持する責任を負います。



不正を防止し発見する基本的な責任は経営者にあるんだ。
経営者は、取締役会による監督や監査役等による監査のもとで、不正を防止・発見するための内部統制を整備・運用する責任を負っているんだよ。



不正による重要な虚偽表示リスクの識別・評価や、それに対する対応については、別の機会に勉強しよう。
◆まとめ◆
・監査において、不正と誤謬は区別して扱う。財務諸表の意図的でない虚偽表示が「誤謬」である。「不正」は、他者を欺くことを目的とした意図的な行為をいう。
・「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」では、不正に起因する誤りも含めて「誤謬」を定義している。
・誤謬と異なり、不正は隠蔽工作を伴うことがあるため、監査人が不正による重要な虚偽表示を発見できないリスクは、誤謬による重要な虚偽表示を発見できないリスクよりも高い。監査人は、誤謬を発見するために有効な監査手続が不正を発見するためには有効でない可能性があることを認識し、監査の過程を通じて職業的懐疑心を保持して監査を行わなければならない。



話をしっかり聞いたから、不正と誤謬の違いはバッチリ理解した!
じゃあ、本日はそろそろおいとまを…。



話の途中で居眠りしていたのを隠蔽しようとしていない?



ばれたか。



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