【内部統制報告制度①】制度の目的と導入経緯をわかりやすく

日本の靴下って足袋(たび)のこと?

靴下なんか使わないのにどうしたの?

この資料に載っているんだ。「J-ソックス」って。

J-SocksじゃなくてJ-SOXだろ。
J-SOXは、日本の内部統制報告制度のことを指すよ。

我が国では、金融商品取引法により、上場会社等を対象に、財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士等による監査が義務づけられています。
この記事では、公認会計士 のそのそ が、我が国における内部統制報告制度の導入経緯についてわかりやすく解説します。

この記事で学べること
  • 内部統制報告制度の概要
  • 内部統制報告制度の導入経緯
  • 内部統制報告制度の目的
目次

我が国における内部統制報告制度の概要

我が国では、金融商品取引法により、上場会社等に内部統制報告書の提出が義務付けられています(金融商品取引法24条の4の4第1項)。
上場会社等の経営者は、財務報告に係る内部統制の有効性を評価し、その評価結果を示した内部統制報告書を作成し開示しなければなりません。

また、内部統制報告書は、原則として監査法人または公認会計士の監査証明を受ける必要があります(金融商品取引法193条の2第2項)。監査人は、経営者の作成した内部統制報告書の適正性について意見を表明します。

つまり、経営者が内部統制報告書を作成する責任を負っていて、監査人は内部統制報告書の適正性について意見表明する責任を負っているよ。

内部統制報告制度は、2008年4月1日以降開始する事業年度から運用されています。

この内部統制報告制度をJ-SOXと呼ぶことがあるんだ。

内部統制報告制度の頭文字じゃなさそうだけど…。

アメリカのSOX法にちなんだ呼称だよ。

我が国における内部統制報告制度の導入経緯

米国におけるSOX法の制定

アメリカでは2002年にいわゆるSOX法が制定されています。正式名称は「Public Company Accounting Reform and Investor Protection Act of 2002(上場企業会計改革および投資家保護法)」です。

ポール・サーベンス(Paul Sarbanes)とマイケル・G・オクスリー(Michael G. Oxley)という議員が提出した法案だから、二人の名前にちなんで「サーベンス・オクスリー(SOX)法」と呼ばれるんだ。

アメリカのSOX法は、エンロン事件などの巨額不正会計事件を踏まえて導入されたものです。

エンロンは急成長した大手エネルギー商社で、当時は先進的な優良企業と評価されていたんだ。でも実際は、事業の失敗で生じた損失を隠すために粉飾を繰り返していたんだよ。

不正会計が明るみとなったエンロンは、2001年に巨額の負債を抱えて倒産しています。
また、翌2002年には、大手電気通信業者ワールドコムも不正会計を機に倒産に至っています。

こうした不祥事の再発防止策として制定されたのがSOX法です。上場企業の財務報告の信頼性と透明性を確保することを主な目的として、広範な内容が規定されています。

SOX法では、財務報告に関連する内部統制についての経営者による評価・報告と、外部監査人による内部統制の監査も定められているよ。

企業の内部統制を充実させて、企業の財務報告の信頼性を確保するという趣旨だね。

同様の制度は、アメリカ以外でも導入されていったんだ。

日本における会計不祥事の発生

その頃、日本でも、企業の会計不祥事が相次いで発覚しました。
なかでも大きな社会問題となったのが、西武鉄道による有価証券報告書等の虚偽記載事件です。

当時、西武鉄道は東証一部に上場していたよ。西武グループには、創業家が実質的に支配するコクドという会社があって、西武鉄道の株式の多くを保有していたんだ。

しかし、西武鉄道の有価証券報告書上、コクドの保有する株式は、創業家の親族や関係者など多数の個人名義に偽装されており、コクドによる持株比率が低く開示されていました。

東証には上場維持基準があるんだ。そのうちの一つとして、上場企業には、ある程度株式が分散して流通している状態が求められるんだよ。
西武鉄道は、コクドがその株式の多くを保有していたから、当時の上場維持基準に抵触する状況だったんだけれど、有価証券報告書では虚偽記載をしてこれを伏せていたんだね。

この不正によって、西武鉄道は2004年に上場廃止となっています。

この事件のほか、カネボウによる巨額粉飾事件などが発覚したのも同時期だよ。

大混乱だなぁ。

企業のディスクロージャーをめぐり不適正事例が相次いで発生した本質的な原因のひとつとして、企業における財務報告の信頼性を確保するための内部統制が有効に機能しなかったのではないかということが指摘されました。

内部統制がきちんと整備・運用されていなかったんじゃないか、と批判されたわけだね。

その通りだよ。
さっき話したように、その少し前にアメリカでSOX法が導入されたこともあって、日本でも内部統制報告制度を導入することになったんだ。

こうした経緯により、我が国においても、上場会社等を対象に、財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士等による監査が金融商品取引法によって義務づけられることになったのです。

アメリカのSOX法は、企業の健全性・透明性を確保するための包括的な法律で、日本の内部統制報告制度よりも広範な内容を規定しているよ。でも、SOX法は世界的に知られているうえ、短くて呼びやすいこともあって、日本の内部統制報告制度をJ-SOXと呼称するようになったんだね。

法案を作った本人たちは、自分たちの名前が日本でも使われるとは思っていなかったかも!?

内部統制報告制度の目的

内部統制報告制度の運用にあたって、2007年に企業会計審議会から次の基準が公表されています。

  • 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準 (以下、「内部統制基準」)
  • 財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準 (以下、「内部統制実施基準」)

直近では2023年に改訂が行われています。

この2つはセットで公表されているよ。「内部統制実施基準」は「内部統制基準」を引用したうえで、それに関する詳細な説明を付す形になっているんだ。

設定当時の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の設定について(意見書)」では、制度導入の経緯と制度の目的が、次のように述べられています。

これまで話した制度導入の経緯と制度の目的がまとまっているから、一読しよう!

一 審議の背景
(1)内部統制の充実の必要性
 証券市場がその機能を十全に発揮していくためには、投資者に対して企業情報が適正に開示されることが必要不可欠となるが、昨今、有価証券報告書の開示内容など証券取引法上のディスクロージャーをめぐり不適正な事例が発生している。
 これらの事例を見ると、ディスクロージャーの信頼性を確保するための企業における内部統制が有効に機能しなかったのではないかといったことがうかがわれ、このような状況を踏まえると、ディスクロージャーの信頼性を確保するため、開示企業における内部統制の充実を図る方策が真剣に検討されるべきであると考えられる。開示企業における内部統制の充実は、個々の開示企業に業務の適正化・効率化等を通じた様々な利益をもたらすと同時に、ディスクロージャーの全体の信頼性、ひいては証券市場に対する内外の信認を高めるものであり、開示企業を含めたすべての市場参加者に多大な利益をもたらすものである。
 この点に関しては、米国においても、エンロン事件等をきっかけに企業の内部統制の重要性が認識され、企業改革法(サーベインズ=オクスリー法)において、証券取引委員会(SEC)登録企業の経営者に財務報告に係る内部統制の有効性を評価した内部統制報告書の作成が義務づけられ、さらに、これについて公認会計士等による監査を受けることとされている
 また、米国以外でも、英国、フランス、韓国等において、同様の制度が導入されている。
(以下省略)

内部統制報告制度が対象とする内部統制

内部統制とは、次の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスをいいます。

内部統制の目的

  • 業務の有効性及び効率性
  • 報告の信頼性
  • 事業活動に関わる法令等の遵守
  • 資産の保全

先述のように、内部統制報告制度は、企業における内部統制の充実を図ることにより、企業の財務報告の信頼性を確保することを目的として導入された制度です。
そのため、内部統制報告制度は、上記の全ての内部統制を対象とするのではなく、財務報告の信頼性を確保するための内部統制(「財務報告に係る内部統制」)のみを対象とします。

ちなみに、2023年に改訂される前の「内部統制基準」では、上記の内部統制の目的における「報告の信頼性」は「財務報告の信頼性」と規定されていたんだ。

この点、近年のサステナビリティ等の非財務情報に係る開示の進展などを踏まえ、非財務情報も含む報告の信頼性を確保することが内部統制の目的の一つであると改訂されています。
「報告の信頼性」の中に「財務報告の信頼性」が含まれ、金融商品取引法上の内部統制報告制度は、あくまでも「財務報告に係る内部統制」を対象とするものであることに変わりはありません

細かいことだけれど、「財務報告」には、財務諸表そのものはもちろん、財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項なども含まれるよ。

つまり、有価証券報告書における財務諸表だけでなく、その他の記載内容のうち財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項も、「財務報告」の範疇に含まれるんだね。

◆まとめ◆

・上場会社等の経営者は、財務報告に係る内部統制の有効性を評価し、その評価結果を示した内部統制報告書を作成し開示しなければならない。監査人は、経営者の作成した内部統制報告書の適正性について意見を表明する。
・我が国の内部統制報告制度は、企業のディスクロージャーをめぐる不適正な事例の多発や、国際的な会計制度改革の流れを背景に導入されたものである。
・内部統制報告制度は、財務報告に係る内部統制の充実を図ることで、企業の財務報告の信頼性を確保することを目的とする。

内部統制報告制度については学習すべき論点が多いけれど、まずは制度の目的をしっかり理解して、足元を固めよう!

足元を固める…? 厚手の靴下でも履くか!

わかりやすくて実用的な一冊だよ!

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