【財務諸表監査はなぜ必要?】財務諸表監査の概要と必要性

知り合いがパン屋さんを経営しているんだけど、毎月税理士さんが「巡回監査」に来るんだって。それって、財務諸表監査を受けているの?

巡回監査は、外部の公認会計士が行う財務諸表監査とは違うものだよ。
監査っていう用語はいろんな場面で使われていて、意味がわかりにくいこともあるよね。

漢字辞典を調べてみると…、
「監」は「見張る・取り締まる」っていう意味。
「査」は「よく見て明らかにする・調べる」っていう意味。
どっちもテンションが上がらないな~。財務諸表監査ってどうして必要なの?

いい質問だね。財務諸表監査の必要性は2023年の公認会計士試験の論文式でも出題されてるんだよ。

「監査」という用語は意外に幅広いシーンで用いられており、小さな誤解があることも多いようです。
この記事では、公認会計士 のそのそ が財務諸表監査の意味とその必要性をわかりやすく解説します。

この記事で学べること
  • 企業外部の公認会計士による財務諸表監査の概要
  • 財務諸表監査の必要性
目次

企業外部の公認会計士による財務諸表監査

財務諸表監査を受けなければならない会社と、そうではない会社があるんでしょ?

そうだよ。法律で実施が定められている監査を「法定監査」っていうんだ。

法律によって制度上実施が定められている監査を「法定監査」といいます。さまざまな法定監査がありますが、企業外部の公認会計士による財務諸表監査は、次の2つがメインです。

  • 金融商品取引法に基づく監査
  • 会社法に基づく会計監査人監査 (※公認会計士が会計監査人となる)

ほかにも、私立学校振興助成法や労働組合法に基づく監査とか、いろんな法定監査があるけど、ここでは省略するね。

どちらの監査も、企業の財務諸表(計算書類)が適正かどうかをチェックするものです。
金融商品取引法に基づく監査は、投資家を含む利害関係者を保護すること、会社法に基づく監査は、主に既存の株主・債権者を保護することを目的としています。

金融商品取引法に基づく監査

金融商品取引法監査の対象になるのはどんな会社?

上場会社が主な対象だよ。

金融商品取引法は、一定要件を満たす企業に対して、投資家が意思決定を行うために必要な企業情報を開示することを求めています。

企業内容開示制度は大きく次の2つから構成されます。

  • 発行市場における開示制度(有価証券を上場する場合など、有価証券を発行する際に求められる情報開示。有価証券届出書など。)
  • 流通市場における開示制度(すでに発行されている有価証券の流通を円滑にするために求められる定期的な情報開示。有価証券報告書など。)

こうした開示書類に含まれる財務諸表は、公認会計士又は監査法人による監査証明を受けるものとされています。

だから、上場会社は財務諸表監査の対象になるってことか。

うん!例外的に、上場会社でなくても有価証券報告書の提出が求められる会社もあるから、覚えておいてね。

非上場会社であっても、有価証券報告書の提出が義務付けられる会社があります。

  • 募集又は売出の際に有価証券届出書を提出した会社
    (※1億円以上の有価証券を新たに発行して取得者を募集する場合、既に発行されている有価証券について1億円以上の売出しをする場合には、有価証券届出書の提出が求められる)
  • 所有者数が1,000名以上の有価証券の発行会社

こうした会社も財務諸表監査を受けています。

たとえば、サントリーホールディングス㈱などは、このタイプ。非上場会社だけれど有価証券報告書を開示しているんだ。

会社法に基づく監査

会社法でも監査が求められることがあるんだよね?

うん!会計監査人監査っていうんだ。
株式を上場しているかどうかに関わらず、会計監査人という機関を設けることが求められる会社があるんだよ。

一般には、単に大規模な会社という意味で「大会社」と表現することがありますが、会社法は「大会社」を明確に定義しています。

大会社:貸借対照表(※)に資本金として計上した額が5億円以上又は負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である会社
(※最終事業年度に係る貸借対照表)

大会社は、会計監査人の設置が義務付けられています。
また、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社も、会計監査人を置かなければなりません。

ここでは、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社の説明は省略するね。

上記以外の会社でも、定款の定めによって、会計監査人を置くことができます。

会計監査人は公認会計士又は監査法人である必要があります。
会計監査人は、会社の計算書類とその附属明細書などを監査するものとされています。

大会社などには、株主や債権者、従業員といった多くの利害関係者が存在するよね。だから、その計算書類が適正であるかをチェックする必要性が高いんだ。

なお、金融商品取引法に基づく監査の対象となる企業は、たいていの場合、会社法に基づく会計監査人監査の対象にもなっています。両監査は同一の公認会計士又は監査法人が行うのが通常です。

両方の監査を同じ監査法人が担当することが法令で定められているわけじゃないけれど、別の監査法人が担当したらコストが大変だからね!

「監査」をめぐる小さな誤解

「監査」という用語は、上述の金融商品取引法に基づく監査や会社法に基づく監査といった、外部の公認会計士による財務諸表監査を指すこともありますが、これとは異なる意味で用いられることも多くあります。

たとえば、企業の顧問税理士が、関与先を定期的に訪問して、会計記録の正確性や適時性などをチェックしたり、会計や税務に関するさまざまなアドバイスをしたりすることを「巡回監査」と呼びますが、これは、公認会計士による財務諸表監査とは異なるものです。

「巡回監査」は、スムーズな会計処理や税務申告のために、税理士さんが会計や税務に関するチェックやアドバイスをしてくれることだよね。
ここでの「監査」はチェックや指導という意味で、監査証明を行うものではないんだね。

財務諸表監査の必要性

金融商品取引法や会社法に基づく財務諸表監査って、どうして必要なんだろう?外部の人に書類をじろじろ見られるのは、気が進まないな~。

でも、監査が行われないと、いろいろ不都合があるんだよ。

利害の対立

財務諸表は、慣習として発達した会計処理の原則及び手続を選択適用し、経営者の主観的判断を含んでいます。

カッコよくいえば、「記録と慣習と判断の総合的表現」ってやつだね!

すなわち、財務諸表は、作成者である経営者の意図が反映されており、主観的・恣意的な性格を持っていると言えます。こうした性格を利用して、経営者が財務諸表の内容を歪める可能性があります。

たとえば、経営者が保身のために実際の利益よりも多い利益を報告する可能性もあるってことか。

いわゆる「粉飾」だね。

一方で、投資家や債権者といった利害関係者は、企業の財務諸表に基づいてさまざまな意思決定をしているため、適正な財務諸表の開示を望んでいます。

つまり、経営者と利害関係者の間には利害の対立が発生するおそれがあると言えます。

利害関係者としては、経営者の作成した財務諸表の信頼性を確かめたいね。

そこで、財務諸表の信頼性の程度を確かめるために、企業や利害関係者から独立した公認会計士が財務諸表を監査し、その信頼性を保証することが必要とされているのです。

影響の重大性

財務諸表に重要な虚偽表示が含まれていれば、投資家や債権者といった利害関係者は意思決定を誤り、損害を被ります。

企業の規模が大きいほど利害関係者の数は多くなるし、被る可能性がある損失も多額になるだろうな。

特に規模の大きい企業に関しては、財務諸表に重要な虚偽表示があった場合、経済社会に大きな影響を与えることになります。こうした影響の重大性を考慮し、金融商品取引法や会社法は一定要件を満たす会社に対して財務諸表監査を求めています。

情報の複雑性

それに…、利害関係者が財務諸表の信頼性を直接検証することってできると思う?

無理!大量の処理をチェックしたり、難しい会計基準を読んだりするだけで、1年くらいかかりそう!

規模の大きい企業は膨大な活動を行っており、その内容は高度で複雑です。こうした企業活動の結果を反映した財務諸表の信頼性を、利害関係者が検証することは不可能と言えるでしょう。
したがって、会計や監査に関する専門能力を持ち、かつ、企業から独立した立場にある公認会計士が、財務諸表の信頼性を保証することが必要となります。

遠隔性

株式が上場されている場合、どこにいてもその企業の株主になることができます。また、国際化の進んだ現代では、企業の取引相手が国外の者であることも少なくありません。
遠く離れた場所に散らばった利害関係者が一緒になって、企業の財務諸表の信頼性を直接確かめることは物理的に困難です。

それに、みんなが寄ってたかって企業の財務諸表を調査する権利なんて、法的にも認めることはできないよね。

そのように考えると、職業的専門家である公認会計士が企業の財務諸表の信頼性を保証するしくみを設けることが理にかなっているのです。

◆まとめ◆

・企業外部の公認会計士による財務諸表監査は、金融商品取引法に基づく監査・会社法に基づく会計監査人監査が中核となっている。
・財務諸表監査の必要性は①利害の対立、②影響の重大性、③情報の複雑性、④遠隔性の4点から説明できる。

難しい話が続いて疲れちゃった~。
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その投資を行える裏側には、財務諸表監査の貢献もあるんだよ。

ありがたや~!

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