【経営者確認書とは】紛らわしい「確認書」もまとめて解説

ねぇ、「コトシチ」って何?
「『言質』」を取る、って書いてあるんだけど。

それは「『ゲンチ』を取る」と読むんだよ。相手の言葉を確実に記録して、後で証拠として利用できるようにしておく、というような意味だね。

言葉を人質に取るのかぁ。ちょっとコワイような…。

財務諸表監査で監査人が経営者に提出を求める「経営者確認書」にも、そういう意味合いがあるよ。

経営者確認書は、財務諸表監査において監査人が経営者から入手する書面です。
この記事では、公認会計士 のそのそ が経営者確認書の内容や目的をわかりやすく解説します。また、これと紛らわしい「確認書」もまとめて説明します。

この記事で学べること
  • 経営者確認書の定義とその目的
  • 経営者確認書が入手できない場合の監査上の取扱い
  • 「確認書」の内容
目次

経営者確認書とは

経営者確認書の定義

財務諸表監査では、監査人は経営者から「経営者確認書」という書面を必ず入手するんだ。

経営者確認書:特定の事項を確認するため又は他の監査証拠を裏付けるため、経営者が監査人に提出する書面又は電磁的記録による陳述

監査基準の次の規定は、この経営者確認書を指しているよ。

監査基準 第三 実施基準 三
9 監査人は、適正な財務諸表を作成する責任は経営者にあること、財務諸表の作成に関する基本的な事項、経営者が採用した会計方針、経営者は監査の実施に必要な資料を全て提示したこと及び監査人が必要と判断した事項について、経営者から書面をもって確認しなければならない。

経営者確認書は、監査人が経営者に提出を要請するもので、その草案は監査人の側で作成します。

経営者確認書は、企業の内部者である経営者から文書による回答を入手するものだから、企業の外部者から回答を入手する確認手続とは違うものだよ。

経営者に対して質問をして、その回答を文書で入手するようなイメージだね。

経営者確認書は、財務諸表監査において監査人が必要とする監査証拠の一つです。

経営者確認書の入手目的

監査人はどうして経営者確認書を入手するの?

大きく2つの目的があるんだ。

監査人が経営者確認書を入手する目的は次の2つです。
経営者が財務諸表の作成責任及び監査人に提供した情報の網羅性に対する責任を果たしたと判断していることについて確認するため
特定のアサーションに関して監査人が入手した他の監査証拠を裏付けるため

財務諸表監査は、経営者が適正な財務諸表を作成する責任を負い、監査人が財務諸表の適正性について意見表明する責任を負うという二重責任の原則のもとで成り立っています。また、財務諸表監査が行われるためには、経営者が財務諸表や監査に関連する全ての情報を提供して監査人に協力することが不可欠です。
監査人が経営者から経営者確認書を入手することには、経営者の財務諸表作成責任や情報提供に協力する責任を、書面等によって正式に確認するという意味があります。

経営者が、財務諸表を適正に作成する責任や情報を提供する責任を果たしたと判断しているかどうかについて、監査人が経営者確認書以外の監査証拠だけから心証を得ることは難しいよね。だから、監査人は経営者確認書を入手する必要があるんだ。

経営者が責任を果たしたと判断しているということについて、言質を取るイメージだね。

経営者確認書の文例の一部分を載せておくね。

本確認書は、当社の有価証券報告書に含まれる×年×月×日から×年×月×日までの第×期事業年度の財務諸表及び同期間の連結会計年度の連結財務諸表(以下「財務諸表等」という。)が、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについて貴監査法人が意見を表明するに際して提出するものです。私たちは、下記のとおりであることを確認します。

財務諸表等
1.私たちは、×年×月×日付けの監査契約書に記載されたとおり、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則及び連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下「財務諸表等規則等」という。)並びに我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して財務諸表等を作成する責任(継続企業の前提に基づき財務諸表等を作成することが適切であるかどうかを評価し、継続企業に関する必要な開示を行う責任を含む。)を果たしました。財務諸表等は、財務諸表等規則等及び我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適正に表示しております。
2.不正又は誤謬による重要な虚偽表示のない財務諸表等を作成するために、経営者が必要と判断する内部統制を整備及び運用する責任は経営者にあることを承知しております。
・・・

提供する情報
9.貴監査法人に以下を提供いたしました
(1) 記録、文書及びその他の事項等、財務諸表等の作成に関連すると認識している全ての情報を入手する機会
(2) 本日までに開催された株主総会及び取締役会の議事録並びに重要な稟議書
(3) 貴監査法人から要請のあった監査のための追加的な情報
(4) 監査証拠を入手するために必要であると貴監査法人が判断した、当社グループの役員及び従業員への制限のない質問や面談の機会
10.全ての取引は会計記録に適切に記録され、財務諸表等に反映されております
・・・

特定のアサーションに関して監査人が入手した他の監査証拠を裏付けるっていうのは、具体的にはどんな例があるの?

一例としては、こんなことを記載するよ!

固定資産の減損
 固定資産の減損会計に関する重要な情報を全て貴監査法人に提示しております。当社及び連結子会社の採用した資産のグルーピングの方法、減損の兆候の識別、減損損失の認識の判定及び測定の方法は、当社及び連結子会社の状況から見て適切なものであると考えており、減損損失を適切に計上しております。

固定資産の減損は会計上の見積りに相当します。減損損失の測定には不確実性があり、経営者の主観的な判断を伴ううえ、見積りの過程でさまざまな仮定が利用されます。そのため、監査人は、監査手続を十分に実施しても、固定資産の減損に関して証明力の非常に強い客観的な監査証拠を入手することは困難である場合が多いと言えます。

だから、固定資産の減損に関して入手した他の監査証拠を裏付けるために、経営者が減損に関する処理を適切に行って減損損失を適切に計上したと判断している旨を、経営者確認書に含めてもらうんだ。

また、口頭ではなく、経営者確認書という書面での陳述を求めることで、より厳密な検討を行うことを経営者に促すという効果も期待できます。

経営者確認書は監査人が必要とする監査証拠ではあるけど、経営者確認書を入手するだけで、記載された事項についての十分かつ適切な監査証拠になるわけではないことに注意してね。

最終的に経営者確認書で確認するからという理由で、監査人が必要な監査手続を省略したりすることはできないということか。

経営者確認書の日付

経営者確認書の日付はいつの時点なの?
決算日かな?

いや、経営者確認書の日付は、通常、監査報告書の日付とするよ。

経営者確認書は、監査人が入手しなければならない監査証拠です。したがって、経営者確認書の日付より前に監査意見を表明することはできません。
まら、決算日の翌日から監査報告書日までに発生した後発事象に関する記載も経営者確認書に含めるため、監査報告書の日付よりも前に経営者確認書を入手するわけにもいきません。
したがって、経営者確認書の日付は、通常、監査報告書の日付となります。

経営者確認書を入手できない場合の取扱い

もし経営者が経営者確認書を提出しない場合は、監査人はどうするの?

そういう状況は現実には考えにくいけど、経営者確認書を入手できない場合、監査人は意見不表明の対応をとらざるを得ないんだ。

そんな大変な事態になっちゃうの!?

監査人は、経営者が財務諸表を作成する責任、及び、監査人に提供した情報及び取引の網羅性に対する責任を果たしたかどうかについて、経営者確認書以外の他の監査証拠のみから判断することはできません。したがって、これらの事項の確認が得られない場合には、監査人は十分かつ適切な監査証拠を入手することができないことになります。

この点について監査証拠が入手できないと、財務諸表に対して広範囲の影響を及ぼすよね。だから、経営者が経営者確認書の提出自体を拒否した場合や、経営者の責任に関する事項について確認が得られない場合には、監査人は財務諸表に対する意見を表明してはならないんだよ。

そんな重要な書類とは思わなかった…。

「確認書」との違い

有価証券報告書の記載内容に関する「確認書」っていうのを聞いたことがあるんだけど、それは経営者確認書とは違うものなの?

紛らわしいんだけど、「確認書」は経営者確認書とは全く別物なんだ。

金融商品取引法は、上場会社等に対して、有価証券報告書等の記載内容に関する「確認書」の提出を求めています。この「確認書」は、有価証券報告書等の開示書類の記載内容が、金融商品取引法令に基づき適正であることを経営者が確認した旨を記したものです。

経営者が、自社の開示書類の内容が適正であることを宣誓する意味合いの書面なんだね。

この「確認書」は、以前は任意の制度でしたが、現在は金融商品取引法により、有価証券報告書等を提出する際に確認書も合わせて内閣総理大臣(※)に提出することが義務付けられています。
(※書面の実際の提出先は、内閣総理大臣から権限委任を受けた財務局長)

「確認書」の文例

【有価証券報告書等の記載内容の適正性に関する事項】
当社代表取締役 枝野 小鳥 は、当社の第〇期の有価証券報告書の記載内容が金融商品取引法令に基づき適正に記載されていることを確認しました。

会計士試験の短答式試験でも、この「確認書」が出題されたことがあるから、経営者確認書と混同しないように気を付けてね。ちなみに、「確認書」に監査証明は不要だよ。

確かに、この確認書を監査して保証することは無理そうだよね。ひっかけ問題で間違えないようにしなくちゃ!

◆まとめ◆

・経営者確認書とは、特定の事項を確認するため又は他の監査証拠を裏付けるため、経営者が監査人に提出する書面又は電磁的記録による陳述をいう。
・経営者確認書の入手目的:①経営者が財務諸表の作成責任及び監査人に提供した情報の網羅性に対する責任を果たしたと判断していることについて確認するため ②特定のアサーションに関して監査人が入手した他の監査証拠を裏付けるため
・経営者確認書を入手できない場合、監査人は意見不表明の対応をとる。
・金融商品取引法により上場会社等の経営者に提出が義務付けられる「確認書」は、有価証券報告書等の記載内容が適正であることを経営者が確認した旨を記すものであり、財務諸表監査における経営者確認書とは別物である。

短答式試験ではひっかけ問題が出題されることも多いから、だまされないように問題文をよ~く吟味して解答番号を選ぶべし!

解答番号を選ぶ責任は自分にあることを承知しております…。

のそのそ の愛読書だよ!

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