【監査人の正当な注意と職業的懐疑心】

友だちが将来会計士になりたいらしいんだけど、自分には向いてないかもしれないって悩んでいるんだ。

どうして?

その友だち、鵜(う)なんだよ。
監基報を見ると…
「監査人は、虚偽表示の可能性を示す状態に常に注意し、監査証拠を鵜呑みにせず、批判的に評価する姿勢を保持する必要がある」
って書いてある。

…鵜って、気の毒だなぁ。

虚偽表示の可能性を示す状態に常に注意し、監査証拠を鵜呑みにせず、批判的に評価する姿勢を「職業的懐疑心」といいます。職業的懐疑心は、監査人の「職業的専門家としての正当な注意」に含まれる概念です。
この記事では、公認会計士 のそのそ が、監査人の正当な注意と職業的懐疑心について説明します。

この記事で学べること
  • 職業的専門家としての正当な注意
  • 職業的懐疑心
  • 正当な注意と職業的懐疑心の関係
目次
USCPA/米国公認会計士 国際資格 アビタス

職業的専門家としての正当な注意とは

鵜が会計士に向いているかどうかを考える前に、監査基準の規定を確認しよう。

監査基準 第二 一般基準
3 監査人は、職業的専門家としての正当な注意を払い、懐疑心を保持して監査を行わなければならない。

職業的専門家としての正当な注意って、どんな注意なんだろう?

職業的専門家としての正当な注意とは、平均的な職業的監査人が財務諸表監査において通常行使しなければならない、または、行使すべきものと期待されている注意をいいます。

職業的専門家としての正当な注意は、民法上の善管注意義務またはそれよりもやや高い程度の注意と解釈されているよ。

「善良な管理者の注意義務」のことだね。

善管注意義務は、業務を委任された人の職業や地位などから考えて通常要求される注意義務です。民法644条には「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」と規定されています。
※公認会計士等と被監査会社との法律関係は、準委任契約関係にあると解されている。準委任契約には、委任の規定が準用される

職業的専門家としての正当な注意は、監査人が行使すべき注意の水準を示すものなんだ。

監査人が職業的専門家としての正当な注意を払って監査を行ったかどうかは、どうやって判断するの?

監査基準を中核とする「一般に公正妥当と認められる監査の基準」は、監査人が払うべき正当な注意の内容を具体化したものであり、正当な注意の水準(の最低限)を示していると考えることができます。

だから、監査人が正当な注意を払って監査を行ったかどうかは、監査人が実施した監査が、一般に公正妥当と認められる監査の基準に照らして適切であったかどうかにより判断されるんだ。

職業的懐疑心とは

監査基準 第二 一般基準 3の「懐疑心」が、友だちの鵜が気にしていた「職業的懐疑心」だね。

職業的専門家としての懐疑心(職業的懐疑心):誤謬又は不正による虚偽表示の可能性を示す状態に常に注意し、監査証拠を鵜呑みにせず、批判的に評価する姿勢

監査人は、財務諸表に重要な虚偽表示が存在する可能性があることを認識し、職業的懐疑心を保持して監査を計画し実施しなければなりません。

監査証拠を鵜呑みにしない…、かぁ。
監査を受ける側は、監査人から誠実じゃないと思われているの?

いや、そういうわけじゃないよ。
職業的懐疑心は、経営者(被監査会社)が誠実であるとも不誠実であるとも想定しない中立的な立場を採るものなんだ。

なあんだ。

被監査会社の経営者が誠実であるという先入観を持って監査を行ってしまうと、監査人が重要な虚偽表示を看過するおそれがあるよね。
反対に、被監査会社の経営者が誠実でないと決めつけると、しらみつぶしに過度な検証を行うことになって、監査の効率的な実施が妨げられてしまうよね。

つまり、監査人は先入観を持たずに中立的な姿勢でいるということだね。

監査人は、職業的懐疑心を保持することによって、通例でない状況を見落としたり、十分な検討をしないまま一般論に基づいて結論を導いたりすることを防ぐことができます。

正当な注意と職業的懐疑心の関係

職業的懐疑心の内容は分かったけれど…、
職業的懐疑心を保持することって、職業的専門家としての正当な注意の範疇に含まれているんじゃない?

たまに鋭いこともあるね。

職業的懐疑心は、職業的専門家としての正当な注意に含まれるものです。したがって、監査基準の規定において職業的懐疑心の保持を明示する必要はないと考えることもできます。
しかし、監査という業務の性格上、監査計画の策定から、その実施、監査証拠の評価、意見の形成に至るまで、財務諸表に重要な虚偽の表示が存在するおそれに常に注意を払うことを求める観点から、監査基準上、職業的懐疑心を保持すべきことが特に強調されています。

職業的懐疑心は、平成14年監査基準改訂の際に明示されたんだ。改訂の前後の規定を見比べてみよう。

平成14年改訂前:「監査人は、監査の実施及び報告書の作成に当たって、職業的専門家としての正当な注意を払わなければならない。」
平成14年改訂後:「監査人は、職業的専門家としての正当な注意を払い、懐疑心を保持して監査を行わなければならない。」

重要な虚偽表示を看過しないためには、職業的懐疑心の保持が極めて重要ということだね。

そのとおりだよ。
特に、不正による重要な虚偽表示は、誤謬による重要な虚偽表示よりも発見することが難しいから、職業的懐疑心が鍵を握っているね。

万が一不正が行われている場合、それを隠蔽するために工作が行われている可能性があるから、監査証拠を鵜呑みしない姿勢が不可欠ということか。

監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクに対応するためには、より注意深く、批判的な姿勢で臨むことが必要であり、監査人としての職業的懐疑心の保持及びその発揮が特に重要であると考えられます。そのため、「監査における不正リスク対応基準(※)」は、その冒頭で「職業的懐疑心の強調」を掲げています。
※「監査における不正リスク対応基準」は、金融商品取引法に基づいて開示を行っている企業(非上場企業のうち資本金5億円未満又は売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の企業は除く。)に対する監査に適用される。

「監査における不正リスク対応基準」は別の機会に勉強しよう。

◆まとめ◆

・職業的専門家としての正当な注意とは、平均的な職業的監査人が財務諸表監査において通常行使しなければならない、または、行使すべきものと期待されている注意をいう。
・職業的懐疑心とは、誤謬又は不正による虚偽表示の可能性を示す状態に常に注意し、監査証拠を鵜呑みにせず、批判的に評価する姿勢をいう。
・職業的懐疑心は正当な注意に含まれる概念だが、その重要性を考慮し、監査基準は職業的懐疑心の保持を明示して強調している。

鵜が会計士に向いているかどうかだけど…、
鵜が丸飲みするのは魚で、監査証拠を丸飲みするわけじゃないから、気にする必要はないと思うよ。

なるほど!そのとおりだ!

きみこそ、そんな風にぼくの言うことをすぐ鵜呑みにするから、もっと批判的に評価する姿勢を持つほうがいい。

会計士はもちろん、これから会計士を目指す人・監査を受ける企業の人にもおすすめ!読み応えのある1冊だよ!

目次