【監査業務に係る審査】審査って何?誰が審査するの?

来月に開催する「飛び方コンテスト」、君が実行委員らしいね。

うん!
今回の審査員には、隣町の動物園からペンギンを招待しているよ!

コトリたちの飛び方を、飛べないペンギンが審査するの?審査員としての適格性に欠ける気がするけど…。
今日は、監査業務に係る「審査」の話をしよう。

監査人は、監査意見を表明する前に、意見表明に関する審査を受けなければなりません。
この記事では、公認会計士 のそのそ が 監査業務に係る審査についてわかりやすく解説します。

この記事で学べること
  • 監査業務に係る審査の内容
  • 審査担当者の選任
  • 監査チームと審査担当者との間で監査上の判断の相違が生じた場合の取扱い
目次

監査業務に係る審査

監査でもコンテストがあるの?
現金を一番早く実査できた人が優勝かな~。

監査業務に係る審査は、監査意見を表明する前のチェックという意味だよ。
監査基準の規定を確認しよう。

監査基準 第四 報告基準 一
5 監査人は、意見の表明に先立ち、自らの意見が一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して適切に形成されていることを確かめるため、意見表明に関する審査を受けなければならない。この審査は、品質管理の方針及び手続に従った適切なものでなければならない。(以下省略)

監査では、監査人(監査チーム)が様々な判断をしたうえで、監査意見を形成するよね。
監査チームが下した重要な判断や到達した結論について、監査チーム以外の人がそれを客観的に評価するしくみが「審査」だよ。

審査:審査担当者によって監査報告書日以前に実施される、監査チームが行った重要な判断及び到達した結論についての客観的評価

監査報告書日というのは、監査報告書に記載される日付のことだよね?

そうだよ。
監査報告書日は、監査人がこの日付までに気付き、かつ、この日付までに発生した事象や取引の影響を検討したことを、利用者に知らせるものなんだ。だから、監査人は、財務諸表に対する意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手した日よりも前の日付を監査報告書日とすることは認められないよ。

審査は、監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手したかどうかを判断する一助となっています。したがって、監査報告書の日付は、審査が完了した日以降の日付としなければなりません。

審査の内容と時期

審査って具体的に何をするのかな?

審査では審査担当者によって次のような手続が行われます。

  • 監査チームや監査事務所から提供された監査業務に関連する情報を通読し理解する
  • 監査責任者などと、監査業務の計画、実施及び報告における、重要な事項及び重要な判断を討議する
  • ①・②で得られた情報に基づき、監査チームが行った重要な判断に関する選択された監査調書を査閲及び評価する
  • 職業倫理に関する規定を遵守していると監査責任者が判断した根拠を評価する
  • 必要な場合に、適切な「専門的な見解の問合せ」が行われたか、及び、当該問合せから生じた結論を評価する
  • 監査責任者の関与が監査業務の全過程を通じて十分かつ適切であると判断した根拠を評価する
  • 財務諸表及び監査報告書を検討する

要は、審査担当者が、監査業務に関連する情報を理解したうえで監査調書の査閲などを行って、監査チームが下した重要な判断や到達した結論が適切であるかを客観的に評価するんだ。

審査担当者が実際に実施する手続の種類や範囲は、その状況により異なります。

監査業務の複雑さ、企業の性質・規模、監査チームが識別・評価した重要な虚偽表示リスクの程度など、さまざまな要因を考慮したうえで、審査担当者が審査の手続を実施するということだね。

審査担当者の手続から察するに…、意見表明の直前に駆け込みで審査を受ければ済むというわけではなさそうだな。

そうだよ。
監査計画から監査の実施・報告にいたるさまざまな段階で、審査担当者が適時に監査調書の査閲などを行う必要があるよ。

審査が適時に実施されることで、監査チームが、職業的専門家としての判断を慎重に行い、より職業的懐疑心を保持・発揮することができると言えます。

なお、大会社等(※)以外の審査では、監査業務の品質が合理的に確保される範囲において、審査の方法、内容、時期及び範囲を簡素化又は柔軟に実施することが認められます。
(※公認会計士法上の大会社等、追加的に大会社等と同様に扱うこととした事業体)

審査担当者の選任

審査担当者はくじ引きやじゃんけんで決めるの?

審査の位置付けを踏まえれば、誰でも審査担当者になれるわけではないんだ。
審査担当者は、監査チームが行った重要な判断や到達した結論を評価し得る適性・能力などを持っていて、かつ、審査対象の監査業務に対して客観的な立場であるべきだよね。

審査担当者は、次の要件を満たしていなければなりません。

  • 監査チームのメンバーではない
  • 適性と能力及び適切な権限を有している(審査を実施するために十分な時間を確保することも含む)
  • 職業倫理に関する規定に準拠する(審査担当者の客観性と独立性を確保することを含む)
  • (該当する場合)審査担当者の適格性に関する法令の規定に準拠する

監査事務所は、上記の要件を満たす者が審査担当者として選任されるように、審査担当者の適格性に関する方針又は手続を定めなければなりません。

監査事務所が審査担当者の選任に関する責任者を定めておき、その責任者が審査担当者を選任するんだ。
実務的に不可能なケースを除けば、基本的には、監査チームのメンバーが審査担当者を選任することなどはできないよ。

審査担当者は、監査事務所の中で選任するの?

監査事務所(監査法人)では内部で審査担当者を選任することが多いよ。でも、小規模な監査事務所や個人事務所では、審査を実施する適格性を有する人が内部にいないこともあるから、その場合は外部に審査を委託するよ。

前述の審査担当者の適格性に関しては、監査業務の責任者が、その後、当該監査業務の審査担当者に就任する場合には、2年間以上の期間をあけることも求められます。

この期間のことを「クーリングオフ期間」と呼ぶよ。
その監査業務に対する影響力がおさまる(cool-off)までの期間という意味合いだろうね。

継続的な監査業務では、重要な判断が行われる事項は変わらないことが多く、過年度の重要な判断がその後の期間においても監査チームの判断に影響を及ぼし続ける可能性があります。
そのため、監査業務の監査責任者だった者が、その後すぐに当該監査業務の審査担当者に就任すると、審査において客観的な評価を行えないおそれがあります。

だから、監査責任者が、その後に当該監査業務の審査担当者に就任する場合には、クーリングオフ期間を設ける必要があるんだ。

監査上の判断の相違

考え方って、人それぞれだよね。
監査チームと審査担当者の判断に違いが生じたらどうするのかな?

監査チームと審査担当者の間などで、監査上の判断の相違が生じることがあります。
監査事務所は、そのような監査上の判断の相違を適切に解決するための品質目標を設定することが求められています。

たとえば、監査上の判断の相違を解決するために、専門的な知識を有する監査事務所内外の者への「専門的な見解の問合せ」をすることが考えられるね。
そういうプロセスを経て、監査上の判断の相違を解決してから監査意見を表明するよ。

つまり、監査チームと審査担当者との間で監査上の判断の相違があっても、議論のないままどちらか一方の意見を押し切ったりはできないし、監査上の判断の相違が解決しないまま監査報告書を発行することもできないんだね。

審査を実施しないことができる監査

審査は、基本的には実施しなければならないけれど、一部の監査業務については審査を実施しないことが認められるよ。

監査基準 第四 報告基準 一
監査人は、意見の表明に先立ち、自らの意見が一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して適切に形成されていることを確かめるため、意見表明に関する審査を受けなければならない。(途中省略)品質管理の方針及び手続において、意見が適切に形成されていることを確認できる他の方法が定められている場合には、この限りではない

特定の目的のために監査が義務づけられ、監査報告の対象となる財務諸表の社会的影響が小さく、監査報告の利用者も限定されているようなものの中には、上場会社に対して行う監査と同様の審査を求める必要はないものもあると考えられるんだ。そのような監査業務を考慮した取扱いだよ。

具体的には、次の監査業務に関しては審査を実施しないことが認められます。

  • 幼稚園のみを設置している都道府県知事所轄学校法人の私立学校振興助成法に基づく監査業務
  • 任意監査のうち、監査報告の対象となる財務諸表の社会的影響が小さく、かつ、監査報告の利用者が限定されている監査業務

審査を実施しない場合でも、他の方法によって、監査意見が適切に形成されていることを確認する必要はある点に注意しよう!

審査を実施しない監査業務に関して、監査意見が適切に形成されていることを確認できる方法としては、監査責任者が意見表明前に実施・文書化する自己点検があります。

◆まとめ◆

・審査とは、審査担当者によって監査報告書日以前に実施される、監査チームが行った重要な判断及び到達した結論についての客観的評価をいう。
・審査担当者には、適格性に関する要件を満たした者が選任される。監査チームのメンバーが審査担当者になることはできない。
・監査チームと審査担当者との間などで監査上の判断の相違が生じた場合、それを解決しないまま監査報告書を発行することは認められない。

ペンギンは「飛び方コンテスト」の審査員としての適格性に欠けるな~。飛び方マニュアルを渡して、コンテストまでに飛べる能力を身につけてもらうか。

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