オスのクジャクって目立つよね。特権階級って感じ!
うらやましいねぇ。
でも、ぼくは特権階級にはならなくてもいいや。「特権リスク」っていうのがあるんでしょ。あの羽の裏側には、知られざるリスクが…。
それは「特検リスク」だよ。
「特別な検討を必要とするリスク」を省略して「特検リスク」ということがあるんだ。特別な権利を持つことで負うリスクじゃないよ。
監査人は、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを評価する際、評価した重要な虚偽表示リスクが「特別な検討を必要とするリスク」であるかどうかを判断することが求められます。「特別な検討を必要とするリスク」は、令和2年監査基準改訂により、その定義が明確化されています。
この記事では、公認会計士 のそのそ が「特別な検討を必要とするリスク(特検リスク)」についてわかりやすく解説します。
- 特別な検討を必要とするリスクの定義
- 特別な検討を必要とするリスクに対する監査人の対応
特別な検討を必要とするリスクの定義
財務諸表監査において、監査人は重要な虚偽表示リスクを評価します。
重要な虚偽表示リスクは、財務諸表全体レベルとアサーション・レベルの2つのレベルで評価されます。
アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを評価する際、監査人は、評価した重要な虚偽表示リスクが「特別な検討を必要とするリスク」であるかどうかを判断することが求められます。
「特別な検討を必要とするリスク」って、1つのキーワードとしては長すぎじゃ…。
「significant risks」を訳したら、そうなっちゃったんだ。長いから、略して「特検リスク」っていうこともあるよ。
「特別な検討を必要とするリスク」は、次のように定義されるんだ。
特別な検討を必要とするリスク:固有リスク要因が、虚偽表示の発生可能性と虚偽表示が生じた場合の影響の度合い(金額的及び質的な影響の度合い)の組合せに影響を及ぼす程度により、固有リスクの重要度が最も高い領域に存在すると評価された重要な虚偽表示リスク
?
定義を読むだけじゃわかりにくいから、図で説明するね。
固有リスクは、関連する内部統制が存在していないとの仮定のうえで、取引種類、勘定残高及び注記事項に係るアサーションに、重要となる虚偽表示が行われる可能性をいうよ。
一口に固有リスクといっても、その内容は様々なんだ。
虚偽表示が発生する可能性は低くても、万が一虚偽表示が生じた場合には大きな影響が生じるようなものもあるだろうし、反対に、虚偽表示が生じる可能性は高いけれど、虚偽表示が生じてもさほど影響がないようなものもあるだろうね。
「虚偽表示の発生可能性」と「虚偽表示が生じた場合の影響」という2つの軸で考えて、どっちもMAXという重要な虚偽表示リスクは、「特別な検討を必要とするリスク」として扱うんだよ。
特別感が漂っている…。
定義からわかるように、特別な検討を必要とするリスクに該当するか否かの決定は、固有リスクの重要度に着目して行われるものです。
したがって、特別な検討を必要とするリスクに該当するか否かを判断するに際して、被監査会社の内部統制の影響(統制リスク)は考慮しません。
その事項に関して、重要な虚偽表示を防止・発見するための内部統制のしくみがあるとしても、固有リスクの重要度が最も高い領域にあるなら、特別な検討を必要とするリスクとして扱うんだ。
特別な検討を必要とするリスクとして扱う事項
前述の定義に基づいて特別な検討を必要とするリスクと決定されるもののほか、次の事項は、特別な検討を必要とするリスクとして取り扱うこととされています。
- 不正による重要な虚偽表示リスク(不正リスク ※)であると評価したリスク
(※不正リスクは、不正による重要な虚偽表示リスクの略称) - 企業の通常の取引過程から外れた関連当事者との重要な取引
これらについては、自動的に、特別な検討を必要とするリスクに該当するイメージだよ。
不正による重要な虚偽表示リスクであると評価したリスク
不正を原因とした重要な虚偽表示リスクについては、念入りに検討しないと見逃す心配がありそうだから、特別な検討を必要とするリスクの扱いになるんだね。
なお、経営者は、有効に運用されている内部統制を無効化することによって、会計記録を改竄し不正な財務諸表を作成することができる特別な立場にあります。
経営者が内部統制を無効化するリスクは、企業によってその程度は異なるものの、全ての企業に存在します。
内部統制の無効化は予期しない手段で行われるため、不正リスクとされます。したがって、特別な検討を必要とするリスクとして扱われます。
それと、監査人は、『収益認識には不正リスクがある』という推定をして、どのような種類の収益や取引に関連して不正リスクが発生するかを判断するのが通常なんだ。
そんなに疑わなくても…。
そういうわけじゃないんだけど、もしも企業が粉飾をしようとする場合、収益(売上高)を操作するのが手っ取り早いよね。特に最近はいろんなビジネスモデルがあって、収益認識が複雑であることも多いから、ごまかしやすい可能性があるよ。
なるほど…。当期だけ減価償却費を半分にごまかしたりしたら、バレバレだもんな~。
だから、監査人は、たいていの場合、収益認識には不正リスクがあるという推定をするんだ。そういうわけで、収益認識は特別な検討を必要とするリスクとして扱われることが多いよ。
企業の通常の取引過程から外れた関連当事者との重要な取引
関連当事者は、たとえば、被監査会社の役員とかでしょ?
そうだよ。
被監査会社と関連当事者は、独立した関係ではないから、関連当事者との取引は、第三者との同様の取引と比べて重要な虚偽表示リスクが高くなることがあるんだ。
この点、あくまでも、企業の通常の取引過程から外れた関連当事者との重要な取引が、特別な検討を必要とするリスクとされることに注意しましょう。
だから、その企業の通常の取引過程のなかで関連当事者と取引をしても、それは特別な検討を必要とするリスクにはあたらないよ。
衣類を販売する会社で、その役員が自社の店舗で普通にTシャツを買ったとしても、重要な虚偽表示リスクは高くないもんな~。
特別な検討を必要とするリスクの決定に関する監査基準の規定
上述の内容は、監査基準では次のように規定されています。
第三 実施基準 二 監査計画の策定
5 監査人は、虚偽の表示が生じる可能性と当該虚偽の表示が生じた場合の金額的及び質的影響の双方を考慮して、固有リスクが最も高い領域に存在すると評価した場合には、そのリスクを特別な検討を必要とするリスクとして取り扱わなければならない。特に、監査人は、会計上の見積りや収益認識等の判断に関して財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事項、不正の疑いのある取引、特異な取引等、特別な検討を必要とするリスクがあると判断した場合には、そのリスクに対応する監査手続に係る監査計画を策定しなければならない。
「特別な検討を必要とするリスク」は、平成17年の監査基準改訂で取り入れられたものです。
平成17年に改訂された際の監査基準では、上記の規定の前段部分は示されていなかったんだ。
定義の部分が明示されていなかったんだね。
うん。
でも、特別な検討を必要とするリスクの識別に一貫性がないという指摘を受けて、令和2年の監査基準改訂によって定義が明確化されて、前段部分が追加されたんだよ。
特別な検討を必要とするリスクに対する監査人の対応
特別な検討を必要とするリスクに該当すると判断したら、監査人はどんな対応をするの?
いくつかポイントがあるから、順に説明しよう。
特検リスクに対応する内部統制の理解
監査人は、特別な検討を必要とするリスクに該当するか否かを決定するに際しては、内部統制の影響を考慮しないけれど、特別な検討を必要とするリスクに該当すると決定したら、その特別な検討を必要とするリスクに対応する内部統制を理解しなければならないよ。
特別な検討を必要とするリスクに対応する内部統制の運用評価手続の実施を計画しているか否か(すなわち、その内部統制に依拠しようとしているか否か)にかかわらず、監査人は、特別な検討を必要とするリスクに対応する内部統制を識別し、その内部統制が効果的にデザインされ、業務に適用されているかどうかを評価する必要があります。
特別な検討を必要とするリスクに対応する内部統制に依拠する予定があってもなくても、そのリスクに対してどんな内部統制が整備されているかということについては理解しておく必要があるんだね。
特別な検討を必要とするリスクに対する内部統制や経営者の対処方針を理解しておくことで、監査人がその特別な検討を必要とするリスクに対してどのような実証手続を立案・実施するかを決定する際に参考となるからです。
運用評価手続に関する留意点
特別な検討を必要とするリスクについても、それに対する内部統制が有効に運用されていることを確かめられれば、監査人はその内部統制に依拠した監査を行うことができるよ。
ただし、重要な留意点があるんだ。
監査人は、特別な検討を必要とするリスクに対する内部統制に依拠しようとする場合には、当年度の監査において、その内部統制の運用評価手続を実施しなければなりません。
内部統制の運用評価手続では、一定の条件を満たせば、過年度の監査で入手した内部統制の運用状況の有効性に関する監査証拠を利用することが認められています。
しかし、特別な検討を必要とするリスクに対する内部統制の運用評価手続については、過年度の監査で入手した内部統制の運用状況の有効性に関する監査証拠を利用することは認められません。
リスクが高くて慎重に対応する必要があるから、過年度の証拠を利用して内部統制の運用状況を評価するのはダメってことか。
実証手続に関する留意点
監査人は、リスク対応手続のアプローチとして、基本的には、次のいずれかのパターンを選択します。
- 運用評価手続と実証手続を組み合わせて実施する
- 運用評価手続のみを実施するだけで足りる
- 実証手続のみを実施する(内部統制に依拠しない)
しかし、特別な検討を必要とするリスクであると決定した場合は、そのリスクに個別に対応する実証手続を必ず実施しなければなりません。
言い換えると、特別な検討を必要とするリスクについては、上記の「②運用評価手続のみを実施するアプローチ」を採ることはできないということだね。
そのとおり!
特別な検討を必要とするリスクについては、①か③のアプローチを採って、そのリスクにマッチした実証手続を必ず行う必要があるんだ。
リスクがとても高いから、実証手続を行わずに運用評価手続だけで対応するというアプローチじゃ不十分ということだね。
また、特別な検討を必要とするリスクに対して運用評価手続を行わずに実証手続のみを実施する場合(すなわち、上記の③のアプローチを採る場合)には、詳細テストを含めなければなりません。
③のアプローチを採るなら、分析的実証手続だけをもって対応するのはダメで、詳細テストを行わなければならないということだね。
分析的実証手続は、データの間に存在すると推定される関係を利用して分析を行って、財務数値の確からしさを検証するにすぎないんだ。
運用評価手続を行わず、しかも、実証手続が分析的実証手続だけというのでは、特検リスクに対する対応としては心許ないでしょ。だから、③のアプローチを採る場合は、詳細テストを必ず実施することが求められるんだよ。
よって、③のアプローチを採るなら、
・詳細テストと分析的実証手続を実施する
・詳細テストだけを実施する
のいずれかになります。
特別な検討を必要とするリスクへの対応に関する監査基準の規定
最後に監査基準の規定も確認しておこう!
第三 実施基準 三 監査の実施
3 監査人は、特別な検討を必要とするリスクがあると判断した場合には、それが財務諸表における重要な虚偽の表示をもたらしていないかを確かめるための実証手続を実施し、また、内部統制の整備状況を調査し、必要に応じて、その運用状況の評価手続を実施しなければならない。
◆まとめ◆
・ 特別な検討を必要とするリスク:固有リスク要因が、虚偽表示の発生可能性と虚偽表示が生じた場合の影響の度合いの組合せに影響を及ぼす程度により、固有リスクの重要度が最も高い領域に存在すると評価された重要な虚偽表示リスク
・「不正リスクであると評価したリスク」「企業の通常の取引過程から外れた関連当事者との重要な取引」は特検リスクとして扱う。
・特検リスクに対する内部統制に依拠しようとする場合は、当年度の監査において、その内部統制の運用評価手続を実施しなければならない(過年度の監査証拠の利用は不可)。
・特検リスクへの対応としては、そのリスクに個別に対応する実証手続を必ず実施しなければならない(運用評価手続だけで対応することは不可)。
・特検リスクへの対応として実証手続だけを行う場合は、詳細テストを必ず含めなければならない。
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