
テストの練習問題を解いて自己採点したら、100点だった!



本当?
…あっ! この問題、間違えているのに〇になってるぞ。



途中まで合ってたから、〇ってことで…。てへ♡



自己採点は甘くなりがちだなあ。
監査ではそういうことがないように、大会社等については監査証明業務と一定の非監査証明業務の同時提供が禁止されているよ。
公認会計士法上の大会社等については、監査証明業務と一定の非監査証明業務の同時提供が禁止されます。
この記事では、公認会計士 のそのそ が、大会社等における監査証明業務と一定の非監査証明業務の同時提供の禁止について、その内容と理由をわかりやすく説明します。
- 監査証明業務と税理士業務の同時提供の禁止
- 大会社等における監査証明業務と一定の非監査証明業務の同時提供の禁止
監査証明業務(1項業務)と非監査証明業務(2項業務)



まずは、公認会計士の業務について確認しよう。
公認会計士法第2条は、公認会計士が実施する業務について次のように定めています。
監査証明業務(1項業務) | 非監査証明業務(2項業務) |
---|---|
他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすること | 公認会計士の名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の調製をし、財務に関する調査若しくは立案をし、又は財務に関する相談に応ずること |



監査証明業務は公認会計士法第2条第1項に規定されるから「1項業務」、非監査証明業務は第2項に規定されるから「2項業務」と呼ばれるんだ。



ケッコウな呼び方だね。



…。
公認会計士かつ税理士という人も多いけれど、税務も行っている場合は、税理士としての資格で行っているのであって、会計士として行っているわけではないよ。



税理士業務は、1項業務でも2項業務でない業務ということだね。
監査人の独立性



監査証明業務(1項業務)を行う場合に、監査人が被監査会社から独立していなくて、被監査会社や特定の関係者にとって有利な監査判断をするとしたらどう?



甘い判断をして公正な監査意見が表明されないんじゃ、みんなが財務諸表を安心して利用できないよ。
財務諸表監査制度そのものも信頼できなくなっちゃう!



そうだね。だから、監査においては、監査人の独立性が確保されることが極めて重要なんだ。
監査基準の規定を確認しておこう。
監査基準 第二 一般基準
2 監査人は、監査を行うに当たって、常に公正不偏の態度を保持し、独立の立場を損なう利害や独立の立場に疑いを招く外観を有してはならない。



この規定の「公正不偏の態度」は精神的独立性だよ。
「独立の立場を損なう利害や独立の立場に疑いを招く外観を有してはならない」ことは外観的独立性だね。
公認会計士法(及び公認会計士法施行令)は、監査人の独立性を確保するべく、公認会計士や監査法人、監査法人の社員が、被監査会社等との関係において特定の利害関係を有する場合には、その会社等に対して監査証明業務を行うことを禁止しています。
一例として、ある会社の役員である公認会計士が、その会社の監査証明業務を行うことは認められません。



自分がその会社の役員をつとめていたら、独立の立場から監査を行うことは難しいもんね。ぼくの自己採点みたいになりかねない。
監査証明業務と税理士業務の同時提供の禁止
公認会計士法(公認会計士法施行令)は、次の場合には、その会社等に対して監査証明業務を行うことを禁止しています。
【個人の公認会計士】
- 公認会計士又はその配偶者が、被監査会社等から税理士業務その他1項業務及び2項業務ではない業務により継続的な報酬を受けている
【監査法人】
- 被監査会社等の監査証明業務の関与社員・指定社員またはその配偶者が、被監査会社等から税理士業務その他1項業務及び2項業務ではない業務により継続的な報酬を受けている
- 監査法人の社員のうちに被監査会社等から税理士業務により継続的な報酬を受けている者がある
⇒すなわち、関与社員・指定社員またはその配偶者が、税理士業務を含む1項業務及び2項業務ではない業務により、被監査会社から継続的な報酬を受けている場合は、監査証明業務を行うことはできない。また、1項業務及び2項業務ではない業務のうち税理士業務に関しては、被監査会社から継続的に税理士業務報酬を受けている社員が監査法人に一人でもいるなら、(当該社員が関与社員・指定社員でなくても)その監査法人は監査証明業務を行うことはできない。



つまり、監査証明業務と税理士業務を同時に提供することは禁止されているよ。
税理士業務を行う場合、会社の立場になって税務書類の作成を行ったり、税務相談に応じたりするよね。だから、会社から独立の立場にあるとは言えないんだ。



もし税理士業務と監査証明業務を同時に行ったら、自分が計算した税額を自分で監査することになっちゃうもんね。



税理士業務との同時提供は、全ての監査証明業務について禁止されるよ。
大会社等における監査証明業務と一定の非監査証明業務の同時提供の禁止
さらに、公認会計士法上の大会社等に関しては、監査証明業務(1項業務)と一定の非監査証明業務(2項業務)の同時提供も禁止されています。
公認会計士法上の大会社等の範囲
公認会計士法上の大会社等の範囲は次のとおりです。
① 会計監査人設置会社
※最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が100億円未満であり、かつ、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が1,000億円未満は除く
② 金融商品取引法による監査の対象となる者
※非上場の金融商品取引法監査対象会社であって、最終事業年度に係る資本金5億円未満又は売上高(最終事業年度又は直近3年間における年間平均のいずれか大きい方)10億円未満、かつ、負債総額200億円未満の会社は除く
③ 銀行、長期信用銀行及び保険会社
④ これらに準ずる者として政令で定める者(信用金庫連合会、会計監査人監査の対象となる独立行政法人など)



会社法上の「大会社」とは別の概念であることに注意してね!
大会社等における監査証明業務(1項業務)と一定の非監査証明業務(2項業務)の同時提供の禁止
公認会計士、監査法人又は監査法人の社員(※)が、次に示す一定の非監査証明業務(2項業務)により大会社等から継続的な報酬を受けている場合は、監査証明業務(1項業務)と同時に提供することが禁止されています。
※公認会計士の配偶者、公認会計士又はその配偶者若しくは監査法人が実質的に支配していると認められる法人その他の団体を含む
これは、公認会計士法による特例規定です。
- 会計帳簿の記帳の代行その他の財務書類の調製に関する業務
- 財務又は会計に係る情報システムの整備又は管理に関する業務
- 現物出資財産その他これに準ずる財産の証明又は鑑定評価に関する業務
- 保険数理に関する業務
- 内部監査の外部委託に関する業務
- 上記のほか、監査又は証明をしようとする財務書類を自らが作成していると認められる業務又は被監査会社等の経営判断に関与すると認められる業務



どれも財務諸表を作成する立場としての業務だから、同時に監査証明業務も行うと、自己監査になるおそれがあるね。



そうだね。監査人が経営者の経営判断に関与することも、監査人の独立性の観点からは望ましくないね。
社会的な影響が大きい公認会計士法上の大会社等の監査証明業務に関しては、監査人の独立性を強化し、監査証明業務への社会からの信頼性をより確保する必要性が高いことから、こうした規制が設けられています。



これは公認会計士法上の大会社等を対象とした規制であること、同時提供が禁止されるのは“一定の”非監査証明業務であることに注意しよう!
なお、監査人が監査の過程で、会計処理などに関し被監査会社に助言や指導を行う業務は、監査証明業務の一環であり、同時提供が禁止される非監査証明業務には該当しません。



指導機能っていうんだよね。
また、監査証明業務又は監査手続と直接的関連性を有するため、監査人により提供されることが効率的であり、かつ、監査の品質を向上させることにも有用であると認められる業務や、法令等により監査人が実施することを要請されている業務は、監査証明業務との同時提供が認められます。



例えば、コンフォートレターの作成業務などは認められるよ。



コンフォートレターって何?



新規株式公開などの時に、監査人が主幹事証券会社に提出する書類なんだ。有価証券届出書等に記載された財務情報やその後の変動について監査人が調査した結果を、主幹事証券会社に報告するものだよ。
保証業務と非保証業務の同時提供に関しては、公認会計士協会による倫理規則にも定めがあります。公認会計士法により同時提供が禁止される非監査証明業務は、倫理規則に基づいても(当然に)同時提供が禁止されますが、それ以外の非保証業務についても倫理規則に照らして同時提供の可否を判断する必要があります。
公認会計士法上の大会社等の監査に関する3つの特例規定



ちなみに、公認会計士法上の大会社等に関しては、監査人の独立性を強化するために、こうした特例規定が3つ定められているよ。
- 監査証明業務と一定の非監査証明業務の同時提供の禁止(このページ)
- 継続的監査の制限
- 単独監査の原則禁止



他の規定は別の機会に勉強しよう!
◆まとめ◆
・監査証明業務と税理士業務の同時提供は禁止される。
・公認会計士法上の大会社等については、監査証明業務(1項業務)と一定の非監査証明業務(2項業務)の同時提供が禁止される。自己監査及び監査人の経営判断への関与を防止し、監査人の独立性を強化することで、監査証明業務の信頼性を確保するための特例である。



じゃあ、練習問題を出すね。
公認会計士法上の大会社等の監査を行う場合に、同時提供が禁止される非監査証明業務を書き出して。ぼくが独立の立場から公正に採点する。



え~っ!
ぼくの練習問題の解答なんて社会的影響がないんだから、自己採点で勘弁してよ!



SSBJ基準の概要をつかむのにおすすめ。
SSBJ基準は、2027年3月期からプライム上場企業に対して時価総額に応じて段階的に義務化される見込みだよ!