
どうしてこれまで言ってくれなかったんだ!



どうしたの? 突然?



きみの持っているこの資料……『特別目的の財務諸表に対する監査』って書いてある。ぼくの知らないところで、特別な任務を背負っていたなんて。



『ミッション・インポッシブル』シリーズの見過ぎだな。
特別目的の財務諸表に対する監査では、監査契約の締結、監査の計画と実施、監査報告において、特に考慮すべき事項があります。
この記事では、公認会計士 のそのそ が、特別目的の財務諸表に対する監査についてわかりやすく説明します。
- 特別目的の財務諸表に対する監査の位置づけ
- 監査契約の締結、監査の計画と実施における考慮事項
- 監査報告書における強調事項区分や配布・利用制限などの取扱い
特別目的の財務諸表に対する監査とは
財務諸表というと、多くの人は、会社法や金融商品取引法に基づいて作成される財務諸表をイメージするかもしれません。しかし、監査の対象となる財務諸表は、それだけに限られるわけではありません。
財務諸表は、それがどのような財務報告の枠組みに準拠して作成されているかによって、一般目的の財務諸表と特別目的の財務諸表に分類されます。
一般目的の財務諸表とは、一般目的の財務報告の枠組みに準拠して作成される財務諸表をいいます。一般目的の財務報告の枠組みとは、広範囲の利用者に共通する財務情報に対するニーズを満たすように策定された財務報告の枠組みです。金融商品取引法に基づく財務諸表や、会社法に基づく会計監査人設置会社の計算書類は、この一般目的の財務諸表に当たります。
一方、特別目的の財務報告の枠組みとは、特定の利用者の財務情報に対するニーズを満たすように策定された財務報告の枠組みをいいます。この特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成される財務諸表を、特別目的の財務諸表といいます。
たとえば、借入契約、組合出資、プロジェクトの補助金などに関する契約書において、特定の財務報告に関する取決めが定められることがあります。また、規制当局が、監督上必要な事項を満たすように財務報告に関する規則等を設定することもあります。このような場合に、その取決めや規則等に基づいて作成される財務諸表が、特別目的の財務諸表に当たることがあります。



一般目的の財務報告の枠組みと特別目的の財務報告の枠組みの違いについては、別の記事で詳しく説明しているよ。



ここは少しややこしいんだけれど……。財務諸表を作成する直接の目的が金融機関への提出であっても、一般目的の財務報告の枠組みに準拠して作成されているなら、一般目的の財務諸表に分類されるんだ。



金融機関に出すから、必ず特別目的になるわけじゃないんだね。



そういうこと。分類するときは、どの財務報告の枠組みに準拠して作成されているかを見る必要があるよ。



特別目的の財務諸表に対する監査って、ほかの財務諸表監査とはまったく別物の、特殊な監査なの?
トム・クルーズが監査するとか…。



そうじゃないんだ。
特別目的の財務諸表に対する監査に関しては、監基報800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」が公表されています。監基報800は、特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査において、他の監査基準報告書を適用する際に特に考慮すべき事項について、実務上の指針を提供するものです。
つまり、特別目的の財務諸表に対する監査であっても、監査人は、個々の監査業務に関連する監査基準報告書を適用します。そのうえで、特別目的の財務諸表に対する監査において特に考慮すべき事項について、監基報800を踏まえて対応することになります。
監査契約の締結時に確認すること
特別目的の財務諸表に対する監査では、監査契約の締結時に、適用される財務報告の枠組みを確認することが重要です。
監査人は、監査契約の締結にあたり、財務諸表の作成において適用される財務報告の枠組みが受入可能なものであるかどうかを判断することが求められています。特別目的の財務諸表の場合には、特に、次の事項を理解する必要があります。
- 財務諸表の作成目的
- 想定利用者
- 適用される財務報告の枠組みが、状況に照らして受入可能であると判断するために、経営者が行った検討内容



特別目的の財務諸表は、特定の利用者の財務情報に対するニーズを満たすための枠組みに準拠して作成されるものだから、監査人は、『何のために作成するのか』『誰が利用するのか』を理解したうえで、適用される財務報告の枠組みが受入可能なものかどうかを判断する必要があるんだね。



そうだよ。財務諸表を合理的に作成でき、監査人が意見を表明するための判断基準として用いることができる枠組みでなければならない、ということだね。
監査の計画と実施で注意すること



特別目的の財務諸表に対する監査でも、監査人が合理的保証を得て意見を表明することに変わりはないよ。
ただし、特別目的の財務諸表では、想定利用者の財務情報に対するニーズを踏まえた対応が必要になります。
たとえば、監査上の重要性を判断する場合、一般目的の財務諸表では、一般的に、財務諸表の一般的な利用者が有する共通のニーズを勘案します。これに対して、特別目的の財務諸表に対する監査では、想定利用者の財務情報に対するニーズを勘案して判断することになります。
また、契約書において定められた財務報告の枠組みに準拠して財務諸表が作成される場合には、経営者が行った財務報告の枠組みに係る取決めに関する重要な解釈を理解する必要があります。複数の合理的な解釈が取り得る場合には、その解釈によって財務諸表に表示される情報に重要な差異が生じることもあるためです。
監査報告書で明らかにすること
特別目的の財務諸表に対する監査では、監査報告書においても、一般目的の財務諸表に対する監査とは異なる取扱いがある点に注意する必要があります。
監査人は、特別目的の財務諸表に対する意見の形成と監査報告を行う際、監基報700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」の要求事項を適用します。そのうえで、監基報800に基づき、特別目的の財務諸表に対する監査報告書において、作成目的や想定利用者などを明らかにする必要があります。



つまり、監査報告書の基本的な構成は、一般目的の財務諸表に対する監査の場合と大きく変わらないということかな。



そうだよ。ただし、特別目的の財務諸表に対する監査だから、誰のために、何のために作成されたのかなどについて、監査報告書を読む人に分かるようにしておく必要があるんだ。
監査人は、財務諸表において、適用される財務報告の枠組みについて適切に記述されているかどうかを評価します。特に、契約書において定められている財務報告の枠組みに準拠して財務諸表が作成される場合には、その取決めに関する重要な解釈が、財務諸表に適切に記述されているかどうかも確認します。
特別目的の財務諸表に対する監査における監査報告書では、財務諸表の作成目的及び想定利用者を記載します。ただし、作成目的の記載によって想定利用者が明確である場合には、想定利用者を別途記載しないこともあります。また、これらの情報について記載している特別目的の財務諸表の注記を参照する形で記載することもあります。
さらに、経営者が、特別目的の財務諸表の作成において財務報告の枠組みの選択肢を有する場合には、監査報告書の「財務諸表に対する経営者及び監査役の責任」区分において、経営者は、適用される財務報告の枠組みが状況に照らして受入可能なものであることを判断する責任を有する旨を記載します。
強調事項区分と配布・利用制限
特別目的の財務諸表に対する監査報告書では、財務諸表が特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成されていることについて、利用者の注意を喚起する必要があります。
そこで、監査報告書に「強調事項」区分を設け、財務諸表が特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成されており、したがって、他の目的には適合しないことがある旨を記載します。



「他の目的には適合しないことがある」というのはどういうこと?



特別目的の財務諸表は、特定の利用者や目的に合わせて作成されているから、別の人が別の目的で使うと、誤解するおそれがあるということだね。
たとえば、金融機関への提出を目的として、金融機関との合意に基づく会計の基準に準拠して作成された財務諸表があるとします。この財務諸表は、その金融機関のニーズを踏まえて作成されているため、それ以外の利用者が別の目的で利用すると、財務諸表の前提や意味を十分に理解できない可能性があります。
そのため、監査報告書では、財務諸表の作成の基礎を示したうえで、それ以外の目的には適合しないことがある旨を明らかにします。なお、この注意喚起は、監査人の意見に影響を及ぼすものではありません。
また、監査人は、監査報告書が特定の利用者のみを想定しており、監査報告書に配布又は利用の制限を付すことが適切であると判断する場合には、適切な見出しを付してその旨を記載します。



配布又は利用の制限は、特別目的の財務諸表に対する監査なら必ず付ける、というわけではないんだね。



そうだね。監査人が、配布又は利用の制限を付すことが適切だと判断した場合に記載する点に注意しよう!
強調事項区分や配布・利用制限は、特別目的の財務諸表やそれに対する監査報告書が、想定されていない目的で利用され、利用者に誤解を生じさせることを避けるために設けられるものです。
◆まとめ◆
・特別目的の財務諸表に対する監査でも、監査人が合理的保証を得て意見を表明する点は変わらない。
・特別目的の財務諸表に対する監査の場合、契約の締結時には、作成目的や想定利用者を理解したうえで、財務報告の枠組みの受入可能性を確認する。
・特別目的の財務諸表に対する監査における監査報告書では、作成目的や想定利用者を明らかにし、強調事項区分により他の目的には適合しないことがある旨を記載する。配布又は利用制限は、監査人が適切と判断した場合に記載する。



監査人が適切と判断した場合には、監査報告書に配布又は利用制限を記載する……。ぼくの成績表にも、利用を制限する旨を記載しておこうかな。



その前に、利用制限を付さなくてもよい成績を目指そうか。



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