
スタバに新作フラペチーノを飲みに行かない?バイト代が入ったからおごるよ。



働き者だね。何のバイト?



実地棚卸のお手伝いだよ。深夜に在庫をひたすら数えて大変だった。
そういえば、監査人が棚卸に立ち会っていたのに、ブラブラしたり、たまにちょっとだけ数えたりしているだけで、ちっとも手伝ってくれなかった。監査人は怠け者だな。



監査における棚卸立会は、会社の棚卸を手伝うことを目的としているわけではないんだよ。
財務諸表監査を受ける会社では、多くの場合、監査人が実地棚卸に立ち会います。棚卸立会は、棚卸資産の実在性と状態について監査証拠を入手するための重要な監査手続です。
この記事では、公認会計士 のそのそ が、棚卸立会についてわかりやすく説明します。
- 棚卸立会とはどのような監査手続か
- 監査人が棚卸立会で何を行っているか
- テスト・カウントで照合する方向とその意味
棚卸立会とは
棚卸立会とは、会社が実施する実地棚卸に監査人が立ち会い、棚卸資産の実在性と状態について監査証拠を入手するための監査手続です。
「立会」という言葉から、監査人が会社の棚卸作業を手伝うことをイメージするかもしれませんが、棚卸立会は、監査人が会社と一緒になって在庫の数量を数える手続ではありません。
会社がどのような指示や手続にしたがって実地棚卸を行うこととしているのかを評価し、実地棚卸がどのように行われているかを観察するとともに、棚卸資産のテスト・カウントや実査を行う手続です。



監査人は、会社の人と一緒になって在庫を数えるために棚卸に参加しているわけではないんだ。



監査人はブラブラしていたわけじゃなくて、棚卸の様子を観察していたのか。
棚卸資産が財務諸表において重要である場合、監査人は、棚卸資産の実在性と状態について十分かつ適切な監査証拠を入手しなければなりません。これにあたっては、実務的に不可能でない限り、監査人は実地棚卸の立会を実施することが求められています。



一部の業種を除けば、在庫には重要性があることが多いよね。だから、多くの監査では、監査人が実地棚卸の立会を実施することになるよ。
監査人による棚卸立会は、棚卸手続を観察することだけ、テスト・カウント(部分的に在庫の数を数えること)だけを目的とするものではありません。
棚卸立会は、棚卸に関する会社の指示や手続を評価し、実施されている棚卸手続を観察し、棚卸資産のテスト・カウントや実査を行うことを通じて、総合的に、棚卸資産の実在性と状態について監査証拠を入手することを目的としています。
なぜ棚卸立会が必要なのか
棚卸資産は、商品、製品、仕掛品、原材料など、企業が販売や製造のために保有している資産です。小売業、卸売業、製造業などでは、棚卸資産の金額が大きくなる傾向にあります。また、期末の棚卸資産の金額は、貸借対照表だけでなく、売上原価を通じて損益計算書にも影響します。そのため、棚卸資産の「実在性」と「状態」は、財務諸表の信頼性にとって重要な意味を持ちます。



実在性というのは、財務諸表に計上されている棚卸資産が実際に存在しているかということでしょ。



そうだよ。棚卸資産は、数が多いうえに、入出庫が頻繁に行われていたり、保管場所が複数の店舗・倉庫・工場などに分散していたりすることもあるから、実際に存在しているかを確かめにくいことがあるんだ。さらに、記録の操作によって、実在しない在庫が計上されるリスクも考えられるよね。だから、『その棚卸資産が実際に存在しているか』をしっかり確かめることが重要なんだよ。
また、「棚卸資産がどのような状態か」を確かめることも重要です。



たとえば、棚ざらしで変色してしまった商品とか、箱がつぶれている商品とかは、取得原価を下回る金額でしか売れない可能性もあるよね。



そういう在庫は評価減が必要になることがあるね。



うん。だから、棚卸立会を通じて、在庫の状態を確かめることも大事なんだ。
したがって、棚卸資産の実在性と状態について十分かつ適切な監査証拠を入手するための監査手続として、原則として棚卸立会の実施が求められているのです。
なお、ここでいう「状態」は、あくまでも、棚卸立会によって把握できる範囲での「状態」を意味します。たとえば、古くなっている、汚れている、ホコリをかぶっていて長期間動いていないように見える、といった状態です。
ただし、棚卸立会によって把握できる「状態」には限界があります。たとえば、市場価格の下落によって棚卸資産の正味売却価額が取得原価を下回っている場合でも、現物を見ただけでは、そのことを判断できるとは限りません。
そのため、棚卸資産の評価については、棚卸立会で得られた現物の状態に関する情報だけでなく、販売価格、販売可能性、滞留状況、期末後の販売実績など、別の情報もあわせて検討する必要があります。



つまり、棚卸立会を通じて、棚卸資産の状態に関する監査証拠を入手することはできるけれど、棚卸立会だけで棚卸資産の評価に関するすべての監査証拠を入手できるわけではないことに注意しよう。
棚卸立会で監査人が行うこと
監基報501「特定項目の監査証拠」では、実地棚卸の立会について、次の4つの目的が示されています。



ちなみに、棚卸立会に関する単独の監基報は存在しないんだ。棚卸立会は、監基報501『特定項目の監査証拠』のなかに規定されているよ。
棚卸立会で監査人が行うこと
- 実地棚卸結果を記録し管理するための経営者による指示と手続を評価すること
- 実施されている棚卸手続を観察すること
- 棚卸資産を実査すること
- テスト・カウントを実施すること
指示・手続の評価
まず、監査人は、会社がどのような指示や手続に基づいて実地棚卸を行うこととしているのかを検討します。
たとえば、どのようなメンバーや手順で棚卸を行うのか、どの範囲を棚卸対象とするのか、棚卸記録をどのように作成・回収・管理するのか、入出庫をどの時点で締め切るのか、といった点です。



きみも臨時のバイトで手伝ったように、実地棚卸は、多数の人が関与して、非常に多くの在庫を一斉に数えるものだよね。だから、それに関する指示や手続があいまいだと、数え漏れ、二重カウント、記録誤りなどが生じやすくなるよ。



実地棚卸をきちんと行うための下地として、あらかじめ指示や手続が適切に定められている必要があるんだね。監査人は、まずそれを確かめるわけか。



監査人は、実地棚卸に先立って、会社の指示や手続を検討するんだ。もし不備があれば、会社に改善を求めることも考えられるよ。
棚卸手続の観察
また、監査人は、実際の棚卸が、会社の定めた指示や手続にしたがって行われているかを観察します。たとえば、棚卸担当者が指示どおりの方法で在庫を数えているか、数え終わった在庫と未了の在庫が区別されているか、棚卸記録が指示や手続どおりに管理されているか、といった点です。



つまり、棚卸立会での観察は、単に現場をブラブラ歩いて眺めるということではないんだ。必要に応じて担当者に質問したり、担当者が記録している様子を観察したりして、定められた指示や手続にしたがっているかを確かめるという趣旨だよ。
なお、監査人は、立会時に、期末日前の最終の売上・出庫、仕入・入庫に関する伝票や明細などのコピーを入手することがあります。これは、後日、期末日前後の売上や仕入、棚卸資産の入出庫が適切な会計期間に記録されているかを検討するためです。



売上や仕入の期間帰属の適切性を検証するために使うということだね。



こうした期末日前後の処理が適切な期間に記録されているかを確かめる検討を、カット・オフの検討といったりするよ。
実査
また、監査人は棚卸資産を実査します。実査とは、実物を実際に確かめる手続です。



在庫を実査すれば、それが実際に存在していることを確かめられるのはもちろん、古くなっている在庫や破損している在庫を識別することにも役立つね。
ただし、棚卸資産は数量や品目数が非常に多いのが通常であり、監査人がすべての棚卸資産を実査できるわけではありません。



特殊な業種を除けば、監査人がすべての在庫を実査するのは現実的ではないんだ。実査の対象とするのは、金額的重要性が高い在庫などを中心に、在庫の一部であることが多いよ。



すべての在庫を監査人自ら実査できるわけではないからこそ、会社が定めた棚卸に関する指示や手続を評価したり、会社の棚卸を観察したりすることを通じても、監査証拠を入手するわけだね。
テスト・カウント



テスト・カウントって、監査人がちょっとだけ在庫を数えるやつでしょ。



うん。ただ、単に『少しだけ数える』というより、会社の棚卸記録の正確性や網羅性を確かめるために行う手続なんだ。
テスト・カウントでは、次の両方向から照合します。
- 実地棚卸記録を起点として、そのとおりに実物在庫があるかどうかを検証する
- 実物在庫を起点として、そのとおりに記録がなされているかを検証する
実地棚卸記録を起点として、そのとおりに実物在庫があるかどうかを検証することは、実地棚卸記録が正確に作成されているか、記録されている棚卸資産が実在しているかを確かめる方向の手続です。


反対に、実物在庫を起点として、そのとおりに記録がなされているかを検証することは、存在する棚卸資産が漏れなく記録されているかを確かめる方向の手続です。





次にバイトに行ったとき、監査人のテスト・カウントのやり方を見てみるといいよ。記録から現物、現物から記録という、それぞれの方向で照合しているはずだよ。
なお、実地棚卸は、必ずしも期末日に行われるとは限らず、期末日より前に行われることがあります。期末日以外の日に実地棚卸が行われた場合には、実地棚卸日から期末日までの棚卸資産の増減が適切に記録されているかを検討する必要があります。



期末日より前に行われた実地棚卸に立ち会った場合、その結果を期末日まで更新して利用するための手続が必要になるよ。これをロールフォワード手続と呼ぶんだ。
ロールフォワード手続については、この記事を参照してね。
外部倉庫などに保管されている在庫
棚卸資産は、会社の店舗や工場、倉庫だけに保管されているとは限りません。外部倉庫など、第三者の保管・管理下にある在庫が含まれることもあります。
このような在庫が財務諸表において重要である場合、監査人は、その第三者に対して在庫の数量や状態について確認を実施したり、必要に応じて実査その他の手続を実施したりして、棚卸資産の実在性と状態について監査証拠を入手します。



外部倉庫などに保管されている在庫については、重要であれば、確認などの手続によって監査証拠を入手する必要があることに注意しよう。
新人会計士が棚卸立会で意識すべきこと
通常の監査手続は経理部や本社で行われることが多いのに対し、棚卸立会では、工場、倉庫、店舗など、普段の監査とは異なる現場に行くことがあります。そのため、会社側の担当者が、監査や棚卸立会に不慣れなこともあります。
監査人は会社の棚卸作業を手伝いに来ているわけではなく、棚卸資産の実在性と状態について監査証拠を入手するために立ち会っています。



会社の人から見ると、監査人がブラブラしているように感じるかもしれないね。



そうだね。だから、状況によっては、監査人が何をしているのかをわかりやすく伝えることも大切だと思うよ。
また、立会を行う監査人としては、「数える」という具体的な行為を伴うテスト・カウントに意識が向きがちです。しかし、棚卸立会では、会社の指示や手続を評価し、実際の棚卸作業がそれにしたがって行われているかを観察することも重要です。



監査人になったあかつきには、テスト・カウントだけに夢中になるんじゃなくて、棚卸立会は、棚卸資産の実在性と状態について監査証拠を入手する場であることを忘れないようにしなくちゃ。
なお、会社によっては、実地棚卸の終了後に、棚卸作業の振り返りや講評の時間が設けられることがあります。その場で、監査人にコメントや所感を求められることもあります。



新人会計士になって棚卸立会に行って、講評を求められたりしたらドギマギしそうだな……。



そういうときは、監査人として何を観察していたのかをコメントすればいいと思うよ。
たとえば、棚卸作業に関する指示が担当者に周知されていたか、数え終わった在庫と未了の在庫が指示通りに区別されていたか、棚卸記録が適切に管理されていたか、といった観察事項を踏まえて、気付いた点を簡潔に伝えればいいんじゃないかな。
◆まとめ◆
・棚卸立会とは、会社が実施する実地棚卸に監査人が立ち会い、棚卸資産の実在性と状態について監査証拠を入手するための監査手続である。
・棚卸立会は、監査人が会社の棚卸作業を手伝うものではない。会社の指示や手続を評価し、実際の棚卸手続を観察し、棚卸資産のテスト・カウントや実査を行うことが中心となる。
・テスト・カウントは、実地棚卸記録から実物在庫を確認する方向と、実物在庫から実地棚卸記録を確認する方向の両方向で行う。



……今さらなんだけど、スタバのフラペチーノじゃなくて、コンビニのジュースでもいい?



まあ、いいけど……。



財布の中身の実在性に少し問題があった。
バイト代の入った翌日に、推し活グッズを爆買いしたのをすっかり忘れてた。



バイト代の使い道について、あらかじめ方針を定めていないからそうなる。



監査人の行う実証手続が勘定科目ごとに詳しく解説されているよ!













