保証だけじゃない!【財務諸表監査の機能】

ねぇ、監査基準の改訂前文(※)を読んでるんだけど…。

エライね~♡

平成30年や令和2年の改訂前文には、監査報告書における「情報提供」っていうキーワードが出てくるよね。
財務諸表監査は、平たく言えば、財務諸表の信頼性の程度を「保証」することを目的としているんでしょ。保証する以外の役割があるの?

いい質問だね!
監査基準が改訂されている理由の一つには、財務諸表監査の持つ情報提供機能への期待の高まりがあるんだ。

(※)監査基準の改訂前文:監査基準の改訂時に公表される「監査基準の改訂について」のこと。監査基準の本文の前に示される。

財務諸表監査は、財務諸表の信頼性を保証する以外にも機能を有しています。
この記事では、公認会計士 のそのそ が財務諸表監査の機能を整理して解説します。

この記事で学べること
  • 財務諸表監査の保証機能と情報提供機能
  • 財務諸表監査の批判機能と指導機能
目次
USCPA/米国公認会計士 国際資格 アビタス

財務諸表監査の利害関係者に対する機能

保証機能

さっき言っていたとおり、財務諸表監査は財務諸表の信頼性を保証する機能を果たしているよね。これは、財務諸表監査が『利害関係者に対して』発揮する機能だよ。そのままだけど、「保証機能」っていうよ。

利害関係者っていうのは、投資者とか債権者とか、監査を受ける会社を取り巻くいろいろな人たちという意味だね。

保証機能:財務諸表の適正性に関する意見を監査報告書に表明し、財務諸表の信頼性を保証する機能

保証機能は、財務諸表監査の本質的な機能です。

情報提供機能

財務諸表監査のメインの機能は保証機能だけど、監査人は監査をする過程で、その会社のいろんな事情を詳しく知る立場にあるよね。
キミがその会社の利害関係者だとしたら、監査人に他の役割も期待したくならない?

会社の状況を詳しく知っているなら、財務諸表の信頼性を保証するだけじゃなくて、企業の状況に関する情報もちょっと教えてくれたら嬉しいな。

企業の監査を行う監査人は、企業の状況を詳しく把握しています。利害関係者は、監査人に対して、こうした企業の状況に関する情報を提供してほしいというニーズを持っています。
企業の状況に関する補足的な情報を、監査人が利害関係者に対して提供すれば、利害関係者はより適切に意思決定を行うことができるからです。

監査基準の改訂前文に出てくる「情報提供」っていうのは、この話なんだね。

情報提供機能:企業の状況に関する利害関係者の判断に役立つ補足的な情報を提供し、利害関係者の意思決定をより的確な方向に導く機能

情報提供機能と二重責任の原則

監査人は企業に関するいろんな情報をどんどん提供して構わないの?

いや、そういうわけにはいかないんだ。
財務諸表を作成して、企業に関する情報を提供する責任はあくまでも経営者にあるよね。監査人の責任は、財務諸表に対する意見を表明することだよ。

そうだった!「二重責任の原則」だね。

監査人が過度な情報提供を行うと、二重責任の原則に反してしまうおそれがあるよ。

財務諸表を作成する責任は経営者にあり、監査人の責任は財務諸表に対する意見を表明することにあります(二重責任の原則)。
監査人が過度に情報提供機能を発揮すれば、経営者の責任と監査人の責任が曖昧になってしまいます。

そこで、制度上、監査人による情報提供機能の発揮は、経営者が提供していない情報を提供することは想定せず、財務諸表で開示されている情報について利害関係者の判断を誤らせないようにするために強調することや、監査に関する説明を行うことなどにとどめられています。

監査報告書における「監査上の主要な検討事項」や「追記情報」などは、監査人による情報提供機能の発揮として記載されているんだよ。

財務諸表監査の被監査会社に対する機能

ついでに、財務諸表監査が『被監査会社に対して』どんな機能を果たしているかも確認しておこう!

批判機能

当然のことだけれど、監査人は監査を受ける会社に対して、その会社の財務諸表の適否を検討するという機能を発揮しているよね。
これを「批判機能」というよ。

批判っていうけど、怒られているみたいな気がするけど…。

そういう意味じゃなくて、基準に照らして判定するというニュアンスだから、心配しないでね。

批判機能:監査人が企業の公表する財務諸表の適否を、適用される財務報告の枠組みに照らして批判的に検討する機能

監査の目的は財務諸表が適正か否かについて監査人が意見を表明することにあるので、前述の保証機能と同様に、批判機能は財務諸表監査の本質的機能といえます。

指導機能

会社が作成した財務諸表に虚偽表示があった場合には、監査人は、まず会社に対してそれを修正するようにアドバイスするよね。それは批判機能とは別の機能と言えるよ。

監査人は、被監査会社に対し必要な助言・勧告を行い、被監査会社が適正な財務諸表を作成するように指導をする機能も担っています。

指導機能:監査人が被監査会社に対し必要な助言・勧告を行い、被監査会社が適正な財務諸表を作成するように指導する機能

企業の公表する財務諸表を利用して意思決定を行う利害関係者にとっては、不適正な財務諸表が開示されることは望ましいことではありません。もし財務諸表が不適正なものであれば、公表される前に適正なものに修正されることを望んでいます。

それに、会社にとっても、監査人に不適正意見を表明されたりすることは望ましくないよね。上場企業の場合、不適正意見や意見不表明になるとペナルティーが課されることがあるよ。

上場廃止になったら大変!だから指導機能も必要ってわけか。

指導機能の位置付け

二重責任の原則を踏まえれば、財務諸表を作成する責任は経営者にあるから、経営者としては監査人のアドバイスを受け入れなくても構わないの?

うん。だから、指導機能には限界があるってことだね。

財務諸表の作成責任はあくまでも経営者にあり、監査人による指導や助言を受け入れるか否かの判断は経営者が行います。監査人は適正な財務諸表が作成されるように経営者に対して必要な助言・勧告を行うことはできるものの、その指導に強制力はなく、経営者はそれを拒否することもできます。
したがって、指導機能には一定の限界があると言えます。

指導機能は、あくまでも批判機能を支える副次的な位置づけにあるんだよ。

監査人が財務諸表に虚偽表示を見つけた場合には、まず指導機能を発揮し、もしその指導が経営者に受け入れられなかったなら、監査人はその状況に応じて批判機能を発揮することになります。

本質的機能副次的機能
対 利害関係者保証機能情報提供機能
対 被監査会社批判機能指導機能
財務諸表監査の機能

◆まとめ◆

・財務諸表監査の利害関係者に対する機能には、保証機能と情報提供機能がある。
・財務諸表監査の被監査会社に対する機能には、批判機能と指導機能がある。
・保証機能と批判機能は本質的な機能、情報提供機能と指導機能は副次的な機能である。

最近は情報提供機能への期待が高まっているんだ。監査基準が頻繁に改訂されている理由の一つは、その期待に応えることにあるんだよ。

ぼくもいろんな側面を持つコトリになって、みんなの期待にこたえたい♡

えっ!(期待しているって言うべきか…。)

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