ほとんどの監査報告書では「無限定適正意見」が表明されているよね。
うん!でも、「無限定適正意見」以外の場合もあるよ。
日本取引所グループ(JPX)のサイトには、監査報告書に「無限定適正意見」以外が記載された上場会社の一覧ページがあるんだ。
へぇ。そもそも、監査意見の種類っていくつあるんだっけ?
監査報告書に記載される監査意見のパターンは大きく分けて4つ。
実務上「無限定適正意見」以外はあまりお目にかからないものの、「無限定適正意見」以外のパターンを理解すると、「無限定適正意見」の意味もくっきりと浮かび上がってきます。
この記事では、公認会計士 のそのそ が監査意見の種類をわかりやすく解説します。
・監査意見の種類
・それぞれの監査意見が表明される状況
監査意見の4つのパターン
監査報告書に記載される監査意見のパターンは大きく分けて次の4つです(適正表示の枠組みを前提)。
- 無限定適正意見
- 限定付適正意見
- 不適正意見
- 意見不表明
②・③・④をまとめて除外事項付意見といいます。
無限定適正意見
経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を全ての重要な点において適正に表示していると認められると監査人が判断したときには、「無限定適正意見」が表明されます。
無限定適正意見のポイントは次の2つ。
- 意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を監査人が入手している
- 財務諸表が企業の財政状態や経営成績などを全ての重要な点において適正に表示していると監査人が判断している
つまり、監査人が重要な監査手続を実施することができ、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手していて、かつ、財務諸表に重要な虚偽表示がないと判断した場合に表明されるってことだね。
意見に関する除外
一方、監査人が、入手した監査証拠に基づき、財務諸表に虚偽表示があると判断した場合、まず会社に修正を求めます。
会社が虚偽表示を適切に修正したら、他に問題がなければ無限定適正意見を表明できるよ。
会社が虚偽表示を修正しない場合には、監査人は、虚偽表示に「重要性」があるかどうかを判断し、「重要性」があればさらにその「広範性」を検討します。
まずは、虚偽表示が財務諸表に及ぼす影響が、無限定適正意見を表明することができないほどに重要であるかどうかを検討します。虚偽表示が存在しても、その虚偽表示に重要性がないと監査人が判断した場合には、無限定適正意見を表明します。
財務諸表監査は、あくまでも財務諸表に『重要な』虚偽表示がないということについて合理的な保証をするものだからね。
意見に関する除外事項を付した限定付適正意見
虚偽表示が財務諸表に及ぼす影響が重要であると監査人が判断したものとしましょう(なお、これには、虚偽表示が個別に重要と判断されるケースだけでなく、複数の虚偽表示を集計すると重要と判断されるケースも含みます)。
この場合、監査人は次のステップとして、重要な虚偽表示が及ぼす影響について「広範性」の有無を検討します。
広範性ってどういうこと?
財務諸表に重要な虚偽表示があるものの、財務諸表を全体として虚偽の表示に当たるとするほどではない場合には、その影響に広範性はないものと判断されます。もちろん、虚偽表示に重要性がある以上、無限定適正意見は表明できないので、この場合に表明されるのは「限定付適正意見」です。
(意見に関する除外事項を付した)限定付適正意見
監査人が、十分かつ適切な監査証拠を入手した結果、虚偽表示が財務諸表に及ぼす影響が、重要であるが広範ではないと判断する場合に表明
この後に出てくるけれど、限定付適正意見が表明されるケースはこれだけではないんだ。
限定付適正意見を表明した原因がはっきりわかるように、このケースの限定付適正意見を、「“意見に関する除外事項を付した” 限定付適正意見」ということもあるよ。
不適正意見
一方、財務諸表に重要な虚偽表示があり、財務諸表が全体として虚偽の表示に当たる場合には、その影響に広範性があるものと判断されます。この場合に表明されるのが「不適正意見」です。
不適正意見
監査人が、十分かつ適切な監査証拠を入手した結果、虚偽表示が財務諸表に及ぼす影響が、重要かつ広範であると判断する場合に表明
財務諸表に虚偽表示がある場合の監査意見の類型をまとめておこう!
虚偽表示に重要性がない | 虚偽表示に重要性がある | |
影響が広範でない | 影響が広範 | |
無限定適正意見 | 限定付適正意見 (意見に関する除外) | 不適正意見 |
監査範囲の制約に係る除外
状況によっては、監査人が監査手続を実施できないこともあり得るよね。
たとえば、大地震で会計記録の一部がなくなってしまったとか…。
そういうとき、監査人はどんな意見を表明するんだろう?
頻繁にあることではありませんが、監査人が予定していた重要な監査手続を実施できないことがあります。重要な監査手続を実施できずに、十分かつ適切な監査証拠を入手できない状況を「監査範囲の制約」と呼びます。
なお、予定していた重要な監査手続そのものは実施できなかったとしても、それに代わる手続(代替的手続)を実施することによって十分かつ適切な監査証拠を入手できたならば、監査範囲の制約にはあたりません。
重要な監査手続が実施できないことにより十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合、監査人は、未発見の虚偽表示がもしあるとすれば、それに「重要性」があるかどうかを判断し、「重要性」があればさらにその「広範性」を検討します。
まず、監査人は、未発見の虚偽表示がもしあるとすれば、それが財務諸表に及ぼす影響が無限定適正意見を表明することができないほどに重要であるかどうかを検討します。その影響に重要性はないと監査人が判断すれば、無限定適正意見を表明することになります。
つまり、意見に関する除外のケースと同じ順序で考えればOK!
監査範囲の制約に係る除外事項を付した限定付適正意見
一方、未発見の虚偽表示がもしあるとすれば、それが財務諸表に及ぼす影響が重要であると監査人が判断した場合には、次のステップとして,その影響が広範なものかどうかを検討します。
未発見の虚偽表示がもしあるとすれば、それが財務諸表に及ぼす可能性のある影響が重要ではあるものの、財務諸表全体に対する意見を表明することができないほどに広範ではないと判断する場合、監査人は「限定付適正意見」を表明します。
(監査範囲の制約に係る除外事項を付した)限定付適正意見
監査人が、十分かつ適切な監査証拠を入手できず、かつ、未発見の虚偽表示がもしあるとすれば、それが財務諸表に及ぼす可能性のある影響が、重要であるが広範ではないと判断する場合に表明
意見不表明
これに対し、監査人が、十分かつ適切な監査証拠を入手できず、かつ、未発見の虚偽表示がもしあるとすれば、それが財務諸表に及ぼす可能性のある影響が、重要かつ広範であると判断する場合には、監査人は意見を表明してはなりません。
意見不表明
意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手できず、かつ、未発見の虚偽表示がもしあるとすれば、それが財務諸表に及ぼす可能性のある影響が、重要かつ広範であると判断する場合には、意見を表明しない
意見表明のための基礎が得られないから、意見を表明しないということだね。
限定付適正意見や不適正意見を表明する状況では、監査人は、その意見を表明するための基礎は得ているということに注意!
監査範囲の制約がある場合のまとめはこちら!
入手できないことによる影響が 重要でない | 十分かつ適切な監査証拠が入手できないことによる影響が 重要である | 十分かつ適切な監査証拠が|
影響が広範でない | 影響が広範 | |
無限定適正意見 | 限定付適正意見 (監査範囲の制約に係る除外) | 意見不表明 |
意見不表明であっても、監査報告書は発行されることに注意してね。意見を表明しない旨やその理由が監査報告書に記載されるよ。
意見不表明が認められる理由
財務諸表監査の目的は財務諸表の適正性について意見表明することなのに、意見不表明の監査報告書も認められるのはどうして?
監査人が、財務諸表全体に対する意見表明のための基礎を得ることができなかった場合にまで何らかの意見を表明しなければならないとすると、表明する意見の保証水準が低いものとなってしまいます。そうすると、利害関係者は監査の結果を信頼して利用することができず、監査制度そのものも信頼を失いかねません。
また、そのような場合にまで無理に何らかの意見を表明しなければならないとすると、監査人に過重な責任を負わせることにもなります。
そのため、意見不表明という類型も認められているのです。
除外事項付意見の類型
じゃあ、最後に、除外事項付意見の類型を整理しておくね!
除外事項付意見を表明する原因の性質 | 除外事項付意見を表明する原因となる事項が財務諸表に及ぼす影響の範囲、または、及ぼす可能性のある影響の範囲が広範なものかどうかという監査人の判断 | |
重要だが広範でない | 重要かつ広範 | |
財務諸表に重要な虚偽表示がある | 限定付適正意見 (意見に関する除外) | 不適正意見 |
十分かつ適切な監査証拠が入手できず、重要な虚偽表示の可能性がある | 限定付適正意見 (監査範囲の制約に係る除外) | 意見不表明 |
◆まとめ◆
・監査意見の類型は、①無限定適正意見、②限定付適正意見、③不適正意見、④意見不表明
・財務諸表に重要な虚偽表示がある場合には、限定付適正意見か不適正意見
・十分かつ適切な監査証拠が入手できず、重要な虚偽表示の可能性がある場合には、限定付適正意見か意見不表明
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